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薄氷
【SM 官能小説】

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薄氷-8

おそらくあなたの性に対する特異な感覚は、今、始まったものではない。あなたは思春期を迎えた頃からすでに性に迷妄していた。その倒錯は普通に性癖と呼べるものではなく、きわめて生まれつきの、本質的なものだったといえる。
父親を幼いころに亡くしたあなたは、高校教師だった母とふたり暮らしだった。厳格な母はしつけに厳しく、家庭においても母親である以上に教師としての顔をもっていた。そしてあなたの前で母はけっして《女》を見せることはなかった。
思い出すがいい、あなたが母親にいだいた初めての性欲を。あれは、あなたが中学三年の夏休みに亡くなった父親の実家を訪れたときのことだった。広い邸宅には母の義父であり、あなたの祖父にあたる男がひとりで住んでいた。
老いているとはいえ、矍鑠(かくしゃく)とした元軍人の祖父はきわめて厳格な顔つきをしていた。そして、あなたが見た祖父と母の関係……それは、初めてあなたがとらえた母の、《女としての、異性としての姿》だった。
深夜にふと目が覚めたあなたは、離れになった蔵から微かに聞こえてくる音に引き寄せられるように歩み寄った。滴るような喘ぎ声、縄が軋み、空を切るような鞭の音……あなたが鉄格子のはまった窓から蔵の中を覗いたときだった。そこには全裸で縛られ、天井から吊るされた母の姿があった。髪を振り乱した母は縄で喰い絞められた白々とした肉体をのけ反らせ、傍には衣服を脱ぎ捨てた裸の祖父が鞭を手にしていた。振り下ろされる鞭は、母の豊満な乳房を撥ね上げ、白い背中の翳りをしならせ、艶やかな尻の肉をぶるぶると震わせていた。これまであなたに見せたことのなかった女を滲み出させた母は、恍惚とした表情を顔に浮かべ、嗚咽と涎を垂らし、陰毛を逆立たせていた。
あなたはその様子を食い入るようにじっと見ていた。祖父は淡々とした表情で、母を虐げていた。そして母は祖父に犯された。祖父の痩せた尻が母の体の上で烈しく蠢いていた。いったいどれほどの時間だったろうか……。ふと気がついたとき、あなたはパジャマの下腹部に大量の射精を放っていた。それはあなたを裏切っている母親の、あなたのものでない母親の、異性としての意味に対するきわめて不可解な性の感覚だった。
だからどうだというのだろう。それが妻との結婚生活にどんな影響をもったというのだろうか。
あなたは自分の不可解な性の、一切の気配を覆い隠した。あなたが妻にいだく欲情の不可解さ、自らの記憶のなかの性の不可解さの気配を。



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