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薄氷
【SM 官能小説】

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薄氷-6

あの男の肉体のことを考えた。妻を抱きながら石膏色から色彩を濃くしていく強靭な肉体のことを。広く厚い胸郭、たくましい腕、引き締まった胴体とズボンが張り裂けるような太腿、そして見たこともない彼の漲るペニスのことを。何もかもが目の前の鏡に映っている自分の姿と違っていた。
あなたは自分の肉体の曖昧さをあらためて感じた。そしてあなたの肉体には、記憶の中の不確かな妻が自分のものではなく、男のものだということを残酷に突きつけられていた。妻はおそらく強姦した男を肯定し、夫であったあなたを否定している。それはあなたが妻と結婚したときから続いていたに違いなかった。そして妻は今、事実として男のものになっている……そう考えたとき、あなたは不自然なほど体の火照りを感じ、自らのペニスに指を添えた。
ベッドに横たわり、眼を閉じた。萎えたペニスに絡んだ指がまるであなたの存在を確かめるようにひとりでに蠢いていく。瞳の中にペニスが映し出される。それは指で触れているあなたのものであって、あなたのものでない。そもそもあなたは漲ったときの自分のペニスの形さえ覚えていないのだから。
やがて鮮やかにあなたの意識が覚醒し始め、まぶたに映った蛇の鎌首のようなペニスの輪郭は猛々しく、堅く、たくましく、彫の深い《あの男のペニス》に変幻していく。石膏色の肉塊の陰翳が伸び上がり、膨張を始め、漲り、色味を帯びた亀頭を粘液でぎらつかせながらあなたに迫ってくる。それはまぎれもなく、妻を犯したあの男のペニスに違いなかった。
男の精液と妻の蜜汁が混在した粘液が亀頭の鈴口から滴っている。その甘酸っぱい匂いがあなたの鼻腔を充たしていく。まるであなたの妻に対する《曖昧な意識》の中に染み入るように。あなたは幻影に冒(おか)される意識の中で粘液の雫を求めるように男の亀頭に唇を添えた。
深い眠りに沈んだようにあなたの身体は動かないのに、唇と、その唇にまどろむ意識だけが醒めていた。唇に挟んだ男のペニスの先端が微かに蠢き、あなたを嘲笑っているような気がした。いや、笑っていたのは妻だったのかもしれない。そう思ったとき妻が《そこにいる》ような気がした。
あなたは男のペニスを深く咥えた。少しずつ唾液を含んでいくあなたの唇の中で、舌とペニスの包皮が粘着し、絡みあい、こすれる。妻の蜜汁の匂いで薫(くん)じられた肉塊を、まるで妻に操られるように貪り、しゃぶり続ける。石膏色から生々しい色彩を少しずつ帯びてくる男のペニスは獣の匂いを発する。それはまぎれもなく妻を犯した獣の匂いだった。あなたは夢中で男のペニスを愛撫した。唇と、舌と、甘く擦れる歯で。その行為はあなたに《確かな妻の意味》を与えていた。妻にとってのペニスの意味として。
男は射精をした。どくどくとあなたの口の中に放たれる精液。粘ついた樹液が澱み、咽喉をつたって流れ下り、あなたの焦燥とけだるさを掻き立てるように胃の中に滲み入っていく。それはあなたの細胞を涸(か)らせ、窒息させ、あなた自身を妻の子宮に追いつめていく。あなたの知らない、あなたが知ることになかった、妻の肉奥に………。



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