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レモネードは色褪せない
【ラブコメ 官能小説】

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転校生-1




 素朴な疑問に対して、自分なりに調べてみたことがある。それはラムネとサイダーの違いについてだ。どちらも似たような味なのに呼び名が違うのには何か理由があるはずだと思った。
 結論から言うと、ラムネとサイダーの中身については区別がないらしい。あの独特な形状の瓶に柑橘風味のジュースを詰めるとラムネ、それ以外の容器に入っているものをサイダーと定義するようで、ようするに外見が違うだけで中身は同じ、ということになる。
 つまるところ、七瀬アイにも同じことが言えるのではないかと僕は思う。A面の彼女も、B面の彼女も、中身は一人の女の子としてこの世に存在するわけで、誰であろうとその尊厳を侵害してはならない。
 自分はタイムカプセルから来たのだと彼女は言っていた。その証拠を見せるから今夜九時に小学校の裏庭に来て欲しい、とも付け加えて。そこは僕の卒業した母校であり、同時に彼女の転校先でもあると思われた。
「お兄ちゃん」
 いきなり部屋に入ってきた妹にびびり、僕は唾を飲み損ねて思いきり噎(む)せた。
「急に入ってくんなよ。ノックぐらい……」
「したよ。そんなことより、これ」
 最近めっきり女らしくなってきたミソラが差し出してきたのは、僕ら兄妹が六年間を過ごしたK小学校の卒業アルバムだった。給食の時間が待ち遠しくて、四時限目の授業に集中できなかった少年時代が懐かしい。
「サンキュー」
 と、口先だけで応じた僕は手を扇いで妹を追い払う。
「七瀬さん、て、まさかお兄ちゃんの初恋の人だったりする?」
「だったりしないよ」
「ふうん、そっか。余計なお世話かもしれないけど、大事にしてあげないと逃げられちゃうからね」
「それはどうも」
 遠ざかる妹の足音を聞きながらさっそくアルバムを開いてみる。妹の言う転校生が七瀬アイだとすると、どうやら彼女は小学校の卒業式を待たずしてふたたび引っ越してしまったらしく、当時の写真が残っているかどうかは運に賭けるしかなかった。
 その彼女がふたたびこの町に戻ってきた理由も気になるが、僕が察するに家庭の事情によるものと思われた。そんなことより、作業を続けよう。
 アルバムは卒業生の顔写真に始まり、教職員の紹介、クラブ活動、運動会、修学旅行、キャンプファイヤー、スキー合宿の写真ときて、最後に卒業文集がおさめられていた。
 写真を見たかぎりでは、七瀬アイの面影を残した女の子はどこにも居なかった。似たような子は居るけれど、おそらく別人だろう。ちなみにミソラの肌は真っ黒に日焼けしていた。
 空振りだったのかな、とあきらめかけてアルバムを閉じようとした時、たまたま目に入った誰かの文集に僕は食い付いた。タイムカプセルを埋めた、というふうな内容が書いてあったからだ。
 僕はもう一度ミソラを部屋に呼び、タイムカプセルのことについて詳しく訊いてみた。どの辺りに埋めたのか、もう掘り起こしたのか、文字通り根掘り葉掘り質問を浴びせ倒した。
「あんまりおぼえてないけど、普通に考えたら学校の敷地内のどこかに埋めると思う。あれってもう掘り出したのかなあ。同窓会の時に男子が盛り上がってたような気もするけど、女子はそうでもなかったんだよね」
「タイムカプセルを埋めた時ってさ、その転校生さんは居たのか?」
「ああ、居たかも。うん、居た、居た。その子も何か埋めてた」
 ミソラの口振りは自信に満ちていた。この妹を七瀬アイに引き合わせたらすべてが解決するような気にもなった。ほんとうは二人きりで会いたいけど仕方がない。僕は天井に頭がぶつかるほどのいきおいで立ち上がった。
「ミソラ、おまえに頼みがある!」
「勉強があるから無理」
「はい……」
 僕の望みは即座に砕け散った。妹の去った部屋にぽつんと立ち尽くして時計を見る。八時三十分を少し過ぎていた。学校までは歩いて十五分くらいだから約束の時間にはじゅうぶん間に合う。
 それにしても彼女に門限はないのだろうか。いくら成人したからといっても暗い夜道を一人で歩かせるには抵抗があるし、夜の学校に侵入するのも何となく怖い。
 いずれにせよ、年頃の女の子を一人で待たせるわけにはいかなかった。僕は母にコンビニに行ってくると告げ、ランドセルを背負ったつもりで小学校までの道を辿り、火照った頬を撫でる夜風に武者震いをした。


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