寂しい身体-1
ーー真由美は目を覚ますと、隣に寝息を感じた。
(ああ…今日は佐田くんが泊まってったんだっけ)
ベタベタするわけでもなく、金治は適度な距離感を取ってベッドで寝る。
真由美は金治の思いを知りながらも、必要以上にパーソナルスペースに入ってこない金治に対して信頼感があった。
もし彼が、好きな気持ちを必要以上にアピールしてくるならば、おそらくこんなに体を重ねることはなかったのかもしれない。
寝ぼけまなこに、そんなことを思いながら服を身につけてない真由美は体を起こした。
「あ…腰…。だる…」
金治は会社のトイレで情事を行なうだけでは足らず、真由美の家に帰宅してからも体を求めた。
スマートフォンで時刻を確認すると、朝の五時だった。
連絡が一件入っている。
真由美の夫からだった。
「ん…?」
ショーツだけを身につけ、スマートフォンを持って、金治を起こさないようにそっと寝室を出る。
リビングのソファーに部屋着のTシャツがかけてあって、それを着ると、ソファーに座った。
薄暗い部屋で要件を見る。
ーーー月曜日、Sの東京本社で会議があるんだけど、どうせなら土曜日からホテルに泊まろうと思ってる。予定が空いてるなら久しぶりにご飯でも食べる?ホテルは渋谷の予定。
連絡が来た時刻は、三十分ほど前だった。
金曜日仕事終わりからずっと飲んでいて、起きていたのだろうか。
真由美はそう思いながら、夫に電話をかけた。
「ーー真由、起きてたの?」
真由美の夫はすぐに電話に出た。その声は少し酔っているらしい。
「ううん、ちょうど目が覚めたから。酔ってる感じする。今日は男の子とデートですか?」
クスッと笑って真由美が問いかける。
真由美が以前金治に説明したように、真由美の夫はゲイだ。
それを踏まえた上で結婚しており、真由美と夫との間に肉体関係はない。
「それがさ〜。僕、最近デートなんかする暇ないんだな…。今日は一人で息抜き。ちょっと仕事しすぎてる。さっき家に帰ってきたところだよ」
「そっか。今日は、家に男の子が来てる」
「うわ!真由の方が遊んでるじゃん」
電話越しにケラケラと笑う声がした。真由美の夫の声は穏やかで、低く、いわゆる「イケボ」というやつなのかもしれない。
「じゃあ、明日の夜はその男の子とご飯食べに行くのかな?」
「うん…その予定。でも会いたいな、久しぶりに。日曜日はダメなの?」
真由美は夫とこうして連絡は取っているが、最後に会ったのは小菅秀次に襲われた件について話し合った時だった。
彼は心配して、すぐに大阪から都内までかけつけてくれたのだった。
もう、何ヶ月も会っていないことになる。
「日曜日は予定入っちゃってるんだ」
「そっか。じゃあ彼との予定は別の日にするよ。土曜日会おうよ」
「大丈夫なの?旦那と会うなんて嫌がるんじゃないの?」
「大丈夫、Hなんかしたことないってきちんと言ってるから。それに、夫に会うくらいでヤキモチ妬かれたら困るよ。普段一緒に暮らしてるわけでもないのに」
「確かにそうかもしれないけれど、僕の恋人がもし奥さんに会うからってリスケしたならヤキモチ妬くよ?」
その言葉に、真由美は「だって、恋人じゃないもん」と言った。
「わかった。その子のこと可愛がってるんだろうから、きちんとフォローはしておくんだよ。また連絡する」
真由美の夫はそう言って、電話を切った。