女教師ケイの放課後-5
屈辱のあまり顔を紅潮させた五月が、懲りずに突っ込んでくる。それに合せるように乾いた音が響いた。
ケイの左脛が五月の内腿を捉えていた。
間髪入れずに同じ膝上に右のローキック。いったん戻した左足を軸に、回し蹴りを叩き込んだのだ。
五月は一瞬迷ったような表情を浮かべたが、すぐに膝を抱えその場にうずくまった。
おおっ、とまわりの生徒がどよめいた。僕もつられて叫んでいた。
左で相手の出足を止めておいて、とどめの右。まさしく理詰めの一撃。
隙をうかがっていた板倉が挑みかかった。
彼はケイの空手につき合うつもりはないようだ。打撃を警戒して低い姿勢から仕掛けた。
ケイはギリギリまで敵を懐に呼び込んだ。そして腰を後方に逃してタックルをつぶすと、腕を板倉の首に巻きつけた。
そのまま覆い被るように、じわじわと自重をかけていく。
みるみるうちに板倉の顔が鬱血していった。
「おバカさん、まだ彼の番は終わってないわ。あなたの順番はすぐだから待ってなさい」
無論、けい動脈を締められてもがく板倉にそれに応える余裕はない。
五月のほうも似たようなもので、よたよたと立ち上がったものの膝に手を置いて荒い呼吸を繰り返すばかりだ。
さすがのワル二人も完全にケイに呑まれてしまっている。
その後も、板倉と五月は彼女の注文どおりに交替で襲いかかり、その都度叩きのめされた。
叩かれた、という表現は適当ではないかもしれない。小突きまわされたと言うべきか。
「良い運動になったかしら?次からもしっかり授業に出なさい」
ケイの勝利宣言を受けて、まわりの生徒たちがやんやと囃し立てる。いかに板倉と五月が嫌われていたかがわかる。
おそらくは激励の意味もあったケイの言葉は板倉たちには届いていない。彼らに残ったのは惨敗の記憶と他の生徒たちからの罵声だけのはずだ。
怪我をさせないよう、攻撃を手控えた教師としての配慮も返って彼らを傷つけた。
生徒たちの歓声に応える美貌の教師のその背中が、より一層の彼らの憎しみをかき立てるのであった。
講堂から少し離れた人気のない場所。
僕がケイを伴って出て行くと、板倉と五月が立ち上がった。
二人の背後から煙が上がっていた。ひとを使いに出しておいて、自分たちは一服していたらしい。