女教師ケイの放課後-12
「実際に空手やってみて、あいつの凄さがわかった。稽古すればするほど自信をなくすぜ」
「あ、ああ……ケ、ケイは強いよ」
板倉と五月のケイに向ける賞賛は嘘ではなさそうだ。結局は僕の思い過ごしかもしれない。
それは僕にとっては歓迎すべき事態というべきであろう。彼らがケイに対する遺恨を忘れてくれれば、面倒なことに巻き込まれずに済むというものだ。
しっかり汗を流した僕たちはささやかな夕食会を開いていた。
風呂を使いさっぱりすると、そのまま浴衣姿でくつろいだ。あたりには空になった缶やビンが転がっている。
ケイが愚痴りはじめた。話題は大概口うるさい学年主任の説教と教頭のセクハラである。
お酒が入っているせいか、今日のケイは艶かしかった。
膝を立てて熱弁をふるう為、形の良い脚が剥き出しになり目のやり場に困る。
「なによ、あんたたち。全然飲んでないじゃない」
「いや、俺ら未青年だし……」
「フン」
俺たちの建前をケイは笑いとばした。そして僕たちの方に向かって缶ビールを放った。
「あんたたち、いつからそんな殊勝になったの?いいから、やりなさい」
「いいのかよ。教師が生徒をそそのかしたりしてよ」
「あたしの見てないところで飲まれるよりマシよ。それにしても暑いわね」
そう言うと、ケイは胸元にぱたぱたと風を送った。生徒たちだけという気安さからか、いつもより大胆だ。
「せっかくお風呂入ったのに、もう汗かいちゃった。後でもう一回入り直さないと……」
ケイの首筋に、ほんのりと赤みが差している。そこにかかる洗い髪からは石鹸の薫りがした。
普段みせる男勝りの姿は影を潜め、今日の彼女は実に色っぽかった。
嫌味にならない程度に科もつくったし、時には年甲斐もなく嬌声もあげた。
「だからぁ、あんたたちの場合は勝負は二の次。半年、一年後のことを考えてのことよ」
ケイの独演会は続いていた。板倉と五月は専ら聞き役に徹していた。
「で、ででもよ、先生よ、お、おれ試合勝ちてえよ」
「あんたも板倉もそうだけど、まずは基礎体力。試合で使う体力は稽古のそれとは全然違うよ」
「わかってるよ、基本だろ。また基本が大事だって言うんだろ」
「いーや、あんたたちはわかってない。基本ってのはね……」
それにしても度を越した酒量だった。ケイの呂律が怪しくなってきた。
酒のせいか、板倉の目がすわっていた。
胸騒ぎがした。