女教師ケイの放課後-11
一ヶ月後、僕たちはひなびた温泉街にいた。
観光のためにきたわけではない。特訓のため、合宿を組んだのである。
引率はもちろん、ケイが請け負った。
発端は五月の放ったひとことではじまった。先生、どうせ稽古するなら大会に出てえよ、と。
ケイはその場での即答は避けたが、検討することを約束した。
翌日、空手部顧問が五月の提案を快諾してきたのは予想外だった。
入部してまだ数ヶ月に満たない、我々は試合のできるレベルにはない。
ケイに言わせると、板倉と五月(僕は除く)は実戦向きなのだそうだ。目標があったほうが、稽古にも身が入るだろうという判断だ。
ただし、休みを返上して猛稽古にあてるという条件はつけられた。
我らの顧問も甘くはないのだ。
合宿は稽古に集中できる環境をということで、山あいの静かな場所が選ばれた。
近場に適当なところがなかったので、少し遠出をして泊り込むことになった。
まずはランニング。足場の悪い山道を走る。ひたすら走る。
道場などないので、空地をみつけてはシャドー、組み手、筋力トレ。技術より体力、スタミナ向上に重点を置いたメニューだ。
シャドー、筋トレはもちろん組み手も二人一組でおこなうので余る者はない。休憩なしで続けられた。
ようやくわずかなインターバルを取ったときには、ケイ以外の三人は完全に息が上がっていた。
僕はいつもやるように深呼吸を繰り返し、息を整えた。
「もうケイに仕返しするのはやめたの?」
特に考えるでもなく、そう聞いていた。
以前だったら、こわくてとても口に出せなかった。
しかし最近の板倉と五月はおとなしい。過去の凶暴性は鳴りをひそめている。
話を振られた板倉が、黙ったまま顎をしゃくった。その向こうにケイの姿がみえる。
道着に身を包んだ彼女が、しなやかに舞っていた。
跳ね上がった足が空を裂く。高い打点のそれは額に膝が当たるほどの柔軟さをもち、かつ流麗さも備えていた。
すり足から正拳、受けから肘打ちへとよどみない動きに板倉が嘆息する。
「最初は俺らが強くなってよ……やっつけるつもりだったんだがよ……」
板倉が幾分自嘲気味につぶやくと、拳をまっすぐに突き出した。
現に彼らは稽古では実戦さながらに仕掛けながら、ことごとく返り討ちに遭っている。