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人形たちの話
【教師 官能小説】

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人形が人形でない話-6


 その日から、一緒にお弁当を食べる時間が苦痛じゃなくなった。僕が一方的に距離を感じていただけで、先生は先生のままだったから。
 放課後の時間、先生は美術の先生にお願いして僕のために美術室を解放してくれたらしい。美術部立ち上げようかという話も出たけど、それは結局いじめの問題を増長するかもしれないから流れた。
 結果として、その話は予感として当たった。
 “あいつら”が神聖な美術室に押し掛けてきたからだ。
 スケッチブックだけは何とか死守したけど、カンバスは破られ、石膏像は割られ、僕は顔を殴られお腹を蹴られた。先生と食べたパンを全部吐いた。
「きったねー」
「ちゃんと掃除しとけよなー」
 ゲラゲラ笑うあいつらに、もう怒りを感じなかった。早く時が過ぎ去るのを、ただ、待つだけ――。
「何してるの?」
 ゾッとするほど無感情な声に、思わず振り向いた。
「こんなことをする暇があったら、少しでも成績を上げることね」
 先生が無感情に無表情に、呟くようにそう言った。さすがにあいつらも様子がおかしいのをわかったのか、「やだなー先生」「俺ら深町を介抱してたんすよー」都合よく適当な嘘をべらべらと喋る。
「そう、ならあとは私が引き継ぐから。帰りなさい」
 あいつらは意外と素直に帰った。聞こえるように舌打ちだけは忘れなかったけど。
「……深町君」
 二人きりになった途端、先生は心配をこれ以上なく声にのせて、僕の名前を呼ぶ。
「い、いいんです。僕、こんなだから、弱いから、どうしようもないから、ダメな人間だから」
 ふわ、と。
 まずいい匂いがした。女性の匂い。大好きな人の匂い。
 次に体温を感じ、そこでやっとぎゅうっと抱きしめられていることが分かった。
「え、あ、え」
「そんなこと言わないで」
 先生は、泣いていた。
「深町君はずっと綺麗で純粋で、素晴らしいものを持ってる!!」
 先生は聞いたことがないほど大きな声で、そう言い切ると。
「――――」
 僕の唇に、唇を重ねた。
「――――!?」
「ごめん、ごめんね……ずっと何も出来なくてごめんね」
 ぎゅうと抱きしめる力が強くなった。僕は脳がスパークして、何も言えない。顔が傷のせいではなく、真っ赤に火照ってるのが自分でもわかった。
「ごめんね、生徒たちから見たら一回り上の先生なんておばさんだろうけど、でも、でも」
 ――深町君のことが好きなの。
「え?」
「……女として、好きなの……」
 これまで圧倒的な存在感を僕の中に占めていた存在が、儚く消えそうだった。
「……ごめんなさい、忘れて」
「ま、待って、待ってください!!」
 そのまま美術室を出ていこうとする先生を、僕は必死に押し留めた。
「僕も、好きです。先生のことが、誰よりも……!」
 必死に言葉を紡いだ。このまま消えてしまわないように、必死に。
「……深町君……?」
「先生は教師かもしれないけど、僕は生徒だけど、でも、それでも、僕は先生のことが……!」
 好きなんです。
「深町君……!」
 そうして教師と生徒という禁断の恋が、始まった。




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