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人形たちの話
【教師 官能小説】

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人形が人形でない話-5


 それから放課後の時間は、生徒と教師としてまともに付き合えた、短い時間だった。だけどいつまでも色あせない、大切な思い出だ。
「先生は、どうして教師になったの?」
「うーん。正直、自慢話になるから、あまり言いたくはないんだけど」
 その話をした時、初めて困ったような顔をしたのを僕はよく覚えている。
「私ね、成績が良かった方だったの。まあその、東大に入ったぐらいには」
 絶句した。東大なら教師にならなくても、もっといい職業がいくらでもあったろうに。
「周りからもそう言われたわ。それまで反抗したことがなかったんだけど、初めて反抗したのがそれだったの。まあ親は好きにしなさいと言われて、反抗だとすら思われなかったけど」
 教師になりたくて教師になったんじゃなかった、先生はそう言った。
「勉強も運動も、親に言われるがままやっていた学生時代だったわ。なんでそんなにやる気がなかったのかはわからないけど、でも柔道や剣道も三段取ったし、親への義理は果たしたかなって思ってる」
 思わず身体を見てしまう。この細い体で柔道三段だとはとても思えないけど、ゆったりした服を着ることが多いのはそのせいだったのかもしれない。
「深町君は、これだけやりたいことが明確にあるんだから、きっと美大に行ける。やりたいことがやれる子になれるわ」
「…………」
 即答できなかった。
 だって、いじめられても反抗できずに黙って受け入れるしかない僕だったから。
「貴方は内気だけど、私なんかよりよっぽど芯の強い子よ。だから、大丈夫」
 多分、きっと。
 僕はこのあたりから、先生に恋してたんだと思う。
 でも恋の成就なんてとても考えられなくて、せめて嫌われたくなくて、その言葉に頷くしかなくて。
 先生に思いを伝えるなんて出来なくて、諦めることになるだろうと、そう思っていた。




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