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よだかの星に微笑みを(第二部)
【SF 官能小説】

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藤澤蘭(一)-2

「何、この店。」
「居酒屋に決まってるだろ。入るよ。」
藤澤は、胡散臭そうな顔をしながら付いてきた。大衆酒場など来たことがないそうだ。
「なに飲む?」
メニューを見た藤澤はなぜかにやにやして
「カクテルとか無いの? 料理も変。名前もおかしい。」
「じゃ、酎ハイ頼んどく。」
「あたしはワインね。ボトルで。」
「アスリートが、それでいいのかよ。」
「あした練習ないから。」
俺はジョッキのビールをまた頼んだ。
「弘前君、よく冬にビール飲むよね。」
「もうすぐ春だよ。取り敢えず乾杯!」
藤澤はレモンハイが気に入ったようだった。ジュースのように飲みながら
「ねえ、どうして丸腰なの? それから二人が一緒にいるのはなぜ? 何かの作戦には思えないし。頭が変になりそう。」
「戦う気がないからね、俺は。」
「弘前君とこの組織が、あなたのこと、あたしと間違えてるみたい。どこの所属なの?」
「俺の組織じゃないってば。」
「説明がめんどくさいもん。」
「だから虫がたくさん来てたんだね。」
「まあ、自分の組織のことは言いたくないのかも知れないね。でも一つ頼みがある。」
「なに?」
藤澤は三杯目を注文した。これもまたよく飲む女なのだろうか。大蛇などに変身するのだろうか。
「あっちの仕事の関係なんだけど」
「あたしとしてみたい?」
「いや、してみたくもあるけど」
アンカが俺の背中をばんと叩いた。
「俺の友達が、藤澤さんにエイズうつされたって言ってる。それ、本当? 治せないかな。」
「誰のことか分からない。でも、あたしは病気、たくさん持ってるよ。人にうつすのが任務だもの。」
「何それ?」
「下品な気持ちを持った男が集まってくるんだよ。そういうのを掃除していくの。」
「あたしらと反対だね。」
「ら、は余計。こいつの事、分かる?」
俺は、渡部の写っている写真を藤澤に見せた。
見て藤澤は
「あ、分かる分かる。常連さんの学者先生。関西弁でしょ。すっごく嫌らしいの。生理の日によく呼び出してきて、会うとヒルみたいに離れない人。お尻の穴に手、何度も押し込まれた。それでその手を舐めたりするの。」
「あいつ、女の股は舐められないとか言ってたけどな。」
「股は確かに舐めないね。お尻の穴ばっかり。それと生理の血が好物みたい。女の腸内細菌と血液が健康にいいとかって。それだから、エイズにしてやったの。」
「学問の皮を被った猟奇性だよなあ。まあ、あいつらしいかも。」
「ねえ、食事中なんだけど。話、気持ち悪い。」
「なんとか治してよ。いい奴なんだよ。」
「いい奴じゃない。そんな義理ない。」
「今日はおごるから。」
藤澤は、聞いて酎ハイをぶっと吹いた。笑ったのだが、子供のような笑顔だった。思えば、まだ十八か十九なのだった。げらげら笑いだしたら、自分で止まらなくなったようだ。
「何、その条件! ああ、久しぶりに笑った。ねえ、これ、もう一杯ちょうだい!」
俺たちの背後には常に、敵対する組織が控えている。気の置けなくなる関係にはなりようが無い。友人同士が、互いのライバル社に就職したら、こういう気持ちになるのかもしれない。
大した話もしていないのに、藤澤は酔っ払ってきていた。ペースが速すぎるのだ。それに予想に反して、酒には弱いようだ。
「あたしには嫌な男だけど、治してあげる。あたしのタンポン、後で渡すからしゃぶらせてやって。」
「つくづく汚いな、もう!」
アンカが不機嫌な顔をして、ワインのグラスを一気に空けた。
「名前で呼び合おうか。あたしはアンカ。こっちは弘前学(まなぶ)君、あなたは、蘭でいい?」
「いいよ。」
「じゃ、乾杯!」
「あたし、ほんと言うと、お酒あんまり飲んだ事ないんだ。居酒屋って、いいね!」
「弘前君、美女に挟まれて嬉しいでしょ。」
アンカに言われ、俺は
「こういうの、初めてだ。」
すると蘭が
「あたし、でも、男の人の、嫌い。」
「の、って何?」
アンカが反応した。蘭は
「おちんちん。玉も全部。この世からなくなってほしい。」
「そう言われてもなあ。」
「あたしは好きだよ。じゃ、女のは? 蘭はひょっとしてレズビアン?」
「これ?」
蘭がスカートを捲ると、パンツを穿いていなかった。俺が観察する前に、アンカに手で戻された。毛が刈り込んであったのだけ、目に入った。蘭は
「女の子のほうが好きだな。アンカは好みの顔。」
アンカが
「友達止まりにしてほしい。」
それを聞いた蘭は
「今、ともだちって言った? 友達になってくれるの? 嘘じゃないね?」
向こうから尋ねられるとは意外だったが、アンカは頷いた。
「弘前君も? それとも女はやっぱり体目当て? おちんちん、嫌いだけど、気持ちよくしてあげられるよ。」
「友達になっていいの?」
俺が聞き返すと、突然、蘭は泣き出した。
「あたし、今まで友達いた事ないの!」
大泣きである。泣き上戸だ。驚いた周りの客はこちらに一度、一斉に注目してから、すぐ元の無関心な賑やかさに戻った。飲み屋以外にこんな事は無いだろう。いい所だと思った。
幼児のように蘭はアンカに甘えつつ、酎ハイは飲み続けた。
「ここで今、変身したりしないでよ。」
アンカが蘭の頭を撫でながら言った。
「あたし達、変身とか、無いの。」
「ええっ?」
アンカと俺は顔を見合わせた。


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