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よだかの星に微笑みを(第二部)
【SF 官能小説】

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深入り-3

珍しく渡部が沈んだ顔をしていた。非常識なほど前向きな奴だったので、これは不思議だった。
「やっぱり真人間の勝ちや。」
「お前が真人間じゃないのは知ってるけどよ、さっぱり分かんねえぞ。ついに性病にでも罹ったか。」
ひいなさんがいない今日、伊月に遠慮はなかった。
「考えたら、お前らに比べたら俺のほうが真人間かもしれん。ストーカーとロリコンやもんな。」
「最近、ポリアンナには会ってない。」
「俺とひいなはまともな恋愛してるぞ。で、何なんだよ、お前は。」
「お前ら、聞いても俺を見捨てへんか。」
「金は貸さないぞ。ないから。」
「大学生として、批判精神に基づいた友情だよ、俺たちのは。論理的攻撃イコール愛情。病気みたいなもんだ。お前は更に大学院に入院するんだろ。病状は重い訳だ。俺たちのこの関係さえ変わんなけりゃ、ほかに何聞いても変わんねえよ。」
「そうか。そうやな。俺な、エイズに罹ってもうた。さり気なく検査したらな、陽性やと。」
さすがに俺たちは唖然となった。だが、
「取り敢えず、友情とは関係ないな。俺たちキスとかする訳じゃないし。お前、ディープキス好きなんだろ。」
「キスじゃうつらねえよ。血とか精液とか混ざらなきゃ。俺たち、ホモじゃなくて良かったよな。」
「そうか。ありがと。後は自分の問題や。」
渡部は握手を求め、それから涙を流した。
「発症しても飲むで。手羽先とホッケ頼もか。」
「酒で発症なんかするか。今日だけアワビでもいいぞ。」
俺が言ったら
「今日はいらんわ。見たくない。」
会話は弾まなかった。運命は、本当に分からないものだ。それなのに、明日を心配したり期待したりして俺たちは生き、また死ぬ。
「お前が病気になったって言ったら、それは俺たちの問題にもなるんだよ。人ごとじゃねえんだよ。ついでに方丈記の人生観がよく分かった。何がどうなるか分からない。これが無常観か。そのための諦念か。」
「でも例えば、加賀の一向一揆って、念仏の集団だろ、他力本願の。無常のこの世は諦めて来世を願うんだろ。それなのに、この世で明るい未来を勝ち取ろうとしたわけだよな。勝ち取れるかどうかより、そういう希望が力になるのかな。」
「宗教は怖いけど、その時に命令で出陣させられた侍より、念仏唱えて戦った奴らの方が絶対、生き甲斐とか死に甲斐とかあったやろな。まあ、昔の侍も、信仰心に似た忠信があったけどな。夢と希望が人を生かすんやな。自分で言うとって、元気になってきたわ。」
議論が始まりかけ、俺の気は少し軽くなった。
「漱石の草枕の冒頭、また思い出したよ。文は忘れた。」
「バカか、お前は。どこへ行っても住みにくいと悟った時、絵が生まれ、詩が生まれる、とか何とか。悪い、俺も忘れた。要は芸術の効用だよな。」
「あのな、お前らに関係ないとは思うけどな、この女や、原因は。隠し撮りしたんやけどな。この店、気い付けい。」
「ふん、美人じゃねえか。整形か? すらっとしてて中国人みたいだな。」
その写真には、藤澤蘭が写っていた。


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