投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

One lives
【その他 その他小説】

One livesの最初へ One lives 10 One lives 12 One livesの最後へ

one lives two case-6

岬さんが寝ている間中、その寝顔を見つめる女性がいる。面会時間の許す限り、ベッドの横に座っている女性がいる。私は、彼女に真実を話す。それはきっと残酷なことだ。レイが私に四年間告げなかった事実を、私は彼女に話さなければならない。
いち、看護婦として。
「ちょっとお話があるのですけれど」私はそっと、彼女に近づいた。


英次は夜の気配に誘われて、目を覚ました。
傍にある時計を見ると、時刻は夜の十時を指していた。すっかり冷めた夕食を済ませ、いつものように屋上へ向かう。
病院はとても静かで、人ひとりいない錯覚を覚える。
そうであったなら、どんなに楽だろうと階段を上りながら考える。
誰かと比べるべくも無い人生だ。
たった一人。
他人も、彼もいない、世界。
けれど、きっとそれは寂しい。
とても寂しいだろう。
もしかしたら壊れてしまうかもしれない。
そうだとしても、今よりは楽なのだろうか?
屋上へ通じるドアを開ける。
待っているのは、春なのに冷たい風と、綺麗なのに孤高の月。
一体いつまで、俺は自身を保てるだろう。
あのこんじきの様に、孤独を愛せるだろうか?
孤独を愛さなければ、生きていけないのだろうか?
結論は冴えず、目を閉じる。
完全に止まった世界の中で、俺は安堵の表情を浮かべる。
「こんにちは、岬さん」
言われて振り向くと、またいつもの看護婦がいる。
「なかなか頑張りますね、看護婦さんも」
「貴方ほどじゃないでしょうに」
そう言う彼女の表情には、疲れの色が滲んでいる。
「どうしてそんなに親身になれるんですか?」
俺たちは他人なのに。
患者としての接し方ではない。それはもがいているようにも見えた。
「救いたいのよ」
誰を?
「あなたを」
『信用するなよ。結局、裏切る。みんな同じさ』
頭が痛い。あまりの痛さに、彼が囁く。
「それと、私自身を、かな」彼女は続ける。
「昔ね、付き合っていた人が、あなたと同じ悩みを抱えていたの。そして私は救えなかった。彼を置いて、私は逃げ出したの。彼と過ごした四年間を否定して、私は彼を闇のなかに置き去りにした。一度は看護婦の職を辞めたけれど、こうして貴方に出会った」
分かる?
彼女は泣いている様に見えた。
その肩の震えは、それとも自身への怒りなのか。
「私の言いたいこと、分かる?これはきっと私が乗り越えなければならないことなの。ずっと疑問に思ってた。どうして私は病院に戻ってきたんだろうって。自分の無力を痛感させられるこの職業は、きっと私には向いていない。けれど戻ってきた。それは必然なんだわ。置き去りにしたのは、彼だけじゃない。私自身も、あの時そこに落としていった。もう、誰も置き去りにはしない。あなたも、私も、今度は救ってみせる」
金網の向こうは、真の暗闇。
その空間に心を押し込めて過ごしてきた。


One livesの最初へ One lives 10 One lives 12 One livesの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前