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One lives
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one lives two case-9

Another case

「そう、良かったね。祥子」
弾む声で、患者の回復を告げる彼女の電話。
気がつけば一時間近く彼女と話をしている。電話の向こうでは、低い男の声が聞こえた。
「祥子、先に風呂に入るぞ」
きっと自宅の電話から掛けているのだろう、それは祥子の夫の声だった。僕は少し寂しい気持ちになる。
「それじゃ、そろそろ切るよ」
「レイ、ありがとう。また近いうちに会いに行くよ」
「あぁ、お休み」
「お休み」
携帯の電源を切る。残されたのは圧倒的な孤独感だけである。自分の体を包みこむように、両肩を抱いた。
寒い。
ここは寒いなぁ。
そう言いながら、彼は僕の耳元で囁く。
『奴は上手くいったようだね。だけど君には無理だよ。君はもっと弱い人間だ。彼は向き合った。そして分かり合えた。けれど彼より多くの時間を掛けても、君は自分に自信が持てない。自身を保てない。いつまでたっても、だ』
いつもよりもはっきりと、その声は響く。僕の内から。世界の外から。己の口から。
「分かり合えない?」
『そう。永久に。だからどちらかが折れるしかない』
呼吸は激しく、鼓動は静かに。
―――うるさい!朝はこれだから嫌なんだ
僕はよろけながらベッドから腰を上げ、カーテンを開けた。
カラカラ
外は完全な暗闇だった。
『もう、いいだろう?』
言われて僕はベッドに振り返った。
もう一人の僕が、さっきと同じように座っていた。
「何でお前が出て来るんだよ?今は夜中だぜ?」
震えた声で呟く。
『認めろ。今、お前を必要としている者なんていない』
その言葉に僕は片ひざをつく。
正面にある鏡に目をやる。
そこに映る姿に違和感を覚える。
真っ暗な暗闇の中、見知らぬ僕が部屋にひとり。
怖くてこわくてこわくてコワクテ。
「いやだ!!!」
僕は叫んだ。
けれど声には出なかった。
僕は確かに叫んだのに、僕の口は動いていなかった。
鏡に映る男は、それを見つめる男に向かって、ニヤリと笑った。


                         One lives two case end



あとがき

物凄く濃い作品である。
くどいくらいメッセージ色の強い文章は、書いている方も萎えてくる。
それでも最後まで書き上げたのは、無難な作品を続けている自分への戒めの意味も込めて。
自己否定というアン・ハッピーエンドを貴方に。

                      Produced by delta


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