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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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酸っぱいイチゴ-3

私と「ゆきちゃん」が付き合い始めたのはその年の3月のことだ。

フリーになった彼女をデートに誘い、バレンタインデーやホワイトデーなど季節のイベントをともに過ごした末に――などと書くと一丁前だが、実際には私らしく気負いすぎて失態の連続、今でもネタにされるような「黒歴史」デートばかりであった。
パターンは決まっていて、少し背伸びしたレストランやバーなどのお洒落スポットで挙動不審だったりマナーがよくわかってなかったりで、彼女にさりげなく助けてもらうといった具合である。背伸びといってもペーペーの新米社会人なりの「背伸び」でたかが知れているし、マナーといってもテーブル会計のお店でレジをキョロキョロ探したりとかそういう極めて基本的な部分といえば、当時の私の「痛さ」が察せられるだろう。
慣れている彼女はやはり自然体で、私のメンツを潰さない程度に控えめにサポートをしてくれた。こういうとき私のことを馬鹿にしたり軽蔑しないのが彼女の美点である。
「でも内心呆れてるよね」と自虐混じりに聞いたことがある。
「うん、この人は私がいなかったらどうするつもりだったんだろうって呆れて見てる」と可笑しそうに笑いつつも「でもそういうのは単に知識や経験があるかどうかの差で、その人自身の内面とは関係がないしぜんぜん気にしない」というのが、彼女のスタンスだった。

それどころか「私が教えてあげたりしたときに素直に聞けるOくんは偉い」「はじめてのことにも怯まない勇気がすごい」などと言ってくれるのである。
「なんか褒めてるふりして実はおちょくってない?」と聞いたらくすくす笑っていたのが若干気がかりではあるが、たしかに無用なプライドがなく誰の言葉でも素直に聞けるのは私の昔からの性格である。できないこともまずはやってみようというタイプでもある。
仕事でもそうやって先輩からすぐに吸収して他の同期より成果を上げていた自負もあったし、実は彼女もそういう私をなんと同じチームになる前から見てくれていたのだそうだ。
「そんなに前から?!」
「そうだよー。そういうOくん、なんかいいなって思ってた」
こう言われてすかさず「奇遇だねー。俺もゆきちゃん可愛いなってその頃から思ってた!もう俺たち付き合っちゃう?」などと言えないのが私である。たぶん今同じシチュエーションになっても言えない。

この時期彼女からはさんざん「好意のサイン」が出ていたと思うが、そういう生来の不器用さが、気持ちを伝えるという最後の行動にブレーキをかけていた。
彼女が「大人のデート」慣れしているのも「元彼の影響かな」「昔の男と比べられてるんだろうな」といったネガティブな思いに繋がった。自分には高嶺の花ではないかと気後れしてしまうのだ(Fとのデート自慢を本人から聞くのはもっと後の話である)。
「いける/いけない」両方の思いが代わる代わる私の心を支配した。

それでも後年ゆきが言うには、約2ヶ月もの間、付き合うか付き合わないかの微妙な関係で重ねたデートはとても甘酸っぱく、ドキドキの連続で楽しかったのだそうだ。ゆきほど余裕はなかったが私もまったく同感である。
私たちは互いの良いところを発見したり、仕事や人生に対する価値観を共有しながら関係を深めていくことができた。
パーフェクトとは程遠いデートでも、なぜか会えば会うほど気持ちが通じていく感覚が私に勇気を与えてくれた。

そして3月のある日、私は彼女に告白した。


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