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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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酸っぱいイチゴ (2)-1

「あーん」
「……」
「ほら、あーん」
「だーめ」
「だめ?」
「このお店のイチゴは私が食べるの」
「えーなんで?」
「せっかくOくんがここ調べて連れてきてくれたんだから全部食べたいの」
「ちぇー。ゆきちゃんのイチゴ処理したかったなー」
もうこの頃になると私も「ゆきちゃん」への好意を隠さなくなっていた。
今日は3月14日、バレンタイデーのお返しをかねてショートケーキが美味しいと評判のカフェに、会社帰りに立ち寄った。

「……パク……もぐ……もぐ……」
「どう?」
「……?!……んー……もぐもぐ……んー……」
はっきりとは言わないが渋い表情のゆきちゃん。きっと酸っぱいのだろう。
眉間に皺を寄せて難しい顔をしている彼女もまた可愛い。
もっとも今日の私はイチゴの味もケーキの味も正直どうでもよかった。
今日、どうにかして彼女に気持ちを伝えるのだ。そのつもりでここに来ている。
カフェのカップルシートは、可愛らしくライトアップされた小さな中庭に面していて悪くない雰囲気だ。
隣に座るゆきちゃんと肩と肩がわずかに触れ合う。
密着はしない微妙な距離。二人とも「カップルシート」という名前の席に並んで座ることにどこか照れがある。

「そっかあ。このお店でもイチゴはだめだったかー」
「うーん……あ、でもケーキ自体はすごく美味しいの!……もぐもぐ……さすが人気店だよね……もぐもぐ……」
気を取り直して「本体」を食すゆきちゃん。
いつも彼女は、けっこうな勢いでショートケーキを頬張る。
オフィスでは周りの目を気にしてるだけかと思っていたが、デート中もそうなので結局いつもそうなのだと最近知った。
本当にショートケーキが好きなのだろう。
そんな食べ方をするからクリームが唇の端っこにくっついてしまうのだ。

「ゆきちゃん」
「なぁに?……もぐもぐ」
くりっとした茶色の瞳に中庭のライトが反射してキラキラ輝いている。
唇も頬もまぶたもキラキラしている。
よく見るとメイクがいつものオフィスでのゆきちゃんと違う気がする。
いつのまに化粧直しをしたのだろう。冗談ではなくお姫様みたいだと思った。
「俺、ゆきちゃんのイチゴ処理係じゃん?」
「うん……もぐ……もぐ……ごっくん」
今日もあっという間に食べ終わった。
「あー、ほんとに美味しかったー!このお店気に入っちゃった!ありがとう、Oくん」
満足そうにコーヒーを口に含むゆきちゃん。
今日も唇の端っこにクリームが付着している。やっぱり可愛い。
告白のことを一瞬忘れてつい見とれていると、彼女が怪訝そうな顔で聞いてきた。

「ひょっとしてOくん、係の仕事できなくって怒ってる?」
「あ、いやそうじゃなくて、えっと……いや……うん、怒ってる……ちょっと怒ってる」
「えーごめんね、そんなに楽しみにしててくれてたなん……」
「だから――」
彼女の言葉をさえぎって続ける。
「だからその代わり『生クリーム処理係』、させてくれないかな」
「え?」
「今ゆきちゃんの唇にくっついてるその生クリームの処理を、させてくれないかな」
「えー?!それベロンてするやつでしょ?やだやだ!自分で拭きます……」
生クリームを指摘されて恥ずかしそうに、そして慌てて指先でぬぐおうとするゆきちゃん。
はじめて「あーん」したとき私が舌をベロンと出して襲いかかったことを覚えてるらしい。
「待って、ふかないで」
その手を握って抑える。
「いやー!ベロンやだー!ごめんなさい許して……!」
笑っている。手の自由を奪われ顔をそむける彼女。
コントみたいになってしまってとても告白なんて雰囲気ではない。
大失敗だ。なんとかしなければ。

「違うごめん、そんなことしないよ……!しないから話を聞いて!ほら俺を見て!」
ベロンしないことを証明するために下を向いて叫ぶ。マイナスからのスタート。
あらためて、ぎゅっと私の両手で彼女の両手を包みこむ。
ひんやりして気持ちいい。女性の手ってこんなに小さかったっけ。
「変なこと言って驚かせちゃってごめん。話を聞いて欲しかっただけなんだよ」
ならなぜ「生クリーム処理係」などと気持ち悪いことを口走ったのか。自分でもよくわからない。
まさかそのまま「きれいに舐めてね」と言ってくれるとでも思ったのか。

「……話?」
「……そう、話」
もういちど強く手を握るり、顔を上げる。
「……」
そうえいば今まで手をつないだことすらなかった。
私たちはあくまで会社の同僚、友だちとしての付き合いが建前。
しかし今日は違う。違うということを彼女にも分かってもらわねばならない。
彼女をじっと見つめる。
彼女もまっすぐこちらを見つめ返してきた。いつもの涼しげな笑みが消えている。
私のただならぬ雰囲気を察して言葉を待っているようにも見える。
言うしかない。


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