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良助
【青春 恋愛小説】

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1 裕子-3

 マサルは学校ではラグビー部のホープで、父親と同じように厳つい顔をして体も大きくてガッチリしている。しかし父親同様見かけに反して、高校卒業と同時に生け花に専心し、いずれは父親の跡を継ぐことになっている。マサルの兄は同じように厳つい顔をしているのだが現代舞踊を習っていてそっちの方面に進むらしい。3人しかいないけれども芸術家一家なのである。
 一葉流は良介には理解できない生け花だが結構繁盛していてマサルの家は金持ちである。家は大きな3階建てのビルで、1階が貸しホール、2階が生け花教室、3階が自宅になっている。良介の家からはちょっと遠いので遊びに行くときは自転車で行く。脇の階段を上っていくと直接3階の玄関に行くようになっていて、貸しホールの前に自転車を止めて上がって行こうとしたら3階の玄関が開いてマサルが女の子と出てきた。訪ねてきた女の子が帰る所のようで、マサルは玄関先で女の子を送り出してそのまま又家に入ろうとしたから自転車のベルを鳴らして合図した。マサルが良介に気付いて女の子の後を追うように階段を降りてきた。1階の所でマサルは女の子に追いついて
 「それじゃ気を付けて帰れよ」
 と言った。良介に紹介しようとはせず、女の子も良介に向かってかすかに頭を下げるような動きをしただけでそのまま行ってしまった。

 「友達?」
 「うん、いや。生け花の弟子なんだけどいずれあいつと結婚するかも知れない」
 「え? 結婚?」
 「いや、先の話だよ」
 「先の話って僕なんか女の友達もいないっていうのに」
 「お前結構女に人気あるのに自分で相手にしてないんじゃないか」
 「そんなこと無い」
 「だって、この間だって田宮が『西高の文化祭に一緒に行かない?』って言ったときお前なんて言ってた?」
 「ああ、断った」
 「お前、田宮に誘われて断る男なんていると思う?」
 「どうして?」
 「どうしてってお前、田宮のこと嫌いなの?」
 「別に嫌いじゃない」
 「だったらあんな可愛い子の誘いをなんでフルんだよ」
 「田宮って可愛いか?」
 「お前誰が好きなの?」
 「うーん、特にいないけど大和田かな」
 「大和田ぁ? あれの何処が可愛いの?」
 「え? 可愛いんじゃなくて誰が好きなのって聞いただろ」
 「それじゃお前可愛いくないけど好きなの?」
 「うーん、好きっていう程でも無いけど気になるんだ」
 「大和田の何処が?」
 「何処って言われても全体としてだから」
 「女に囲まれて育つと女の見方が歪んじゃうのかな」
 「どうして? 粕谷だって生け花教室で女に囲まれてんだろ」
 「それは仕事だから全然違うの」
 「ふん。でも大和田ってそんなに酷いかな?」
 「別に酷くはないけど田宮と比較になんないぜ」
 「田宮ってちょっときつく無い?」
 「可愛い子なんてみんなきついんだぜ」
 「そうかな」
 「そうだよ。お前の姉さん見ろよ、きついなんてもんじゃ無いだろ」
 「僕の姉さん?」
 「そうだよ」
 「あれは酷い。粕谷は僕の姉さん可愛いと思うの?」
 「可愛いなんてもんじゃないだろ。あんな美人滅多にいないぜ。お前の姉さんだなんて信じらんないよ」
 「そうかあ? ああいうの美人って言うのかな?」
 「だからお前の美意識は歪んでるって言うの」
 「今の子ちょっと可愛いかったじゃないか」
 「どれ?」
 「どれじゃない、さっき帰ってった子だよ」
 「ああ、あれか。お前って寝ぼけた顔が好きなの? そう言えばちょっと大和田も寝ぼけてるな」
 「粕谷だって好きだから結婚すんだろ」
 「お前みたいな自由人はいいな。暢気なこと言ってられて」
 「何? 好きじゃ無いの?」
 「あいつはな、親父が選んだんだ。弟子の中で1番才能があんだって」
 「生け花の?」
 「ああ」
 「ああいうのにも才能ってあんのかあ?」
 「お前みたいな凡人には分からないの」
 
 マサルの家に行ったって唯2人で喋るだけで特にこれといったことをする訳では無い。夕飯の時間に合わせて帰ってくると恵子がオートバイを分解して掃除していた。恵子はアルバイトでモデルをやっている程の美人だが、オートバイが大好きである。自分でチェーンを取り替えたり、ちょっとした修理なら何でも自分で部品を買ってきてやってしまう。手を真っ黒に汚してガソリンでチェーンを洗っていた。マサルが美人だと言っていたのを思い出して横からじっと顔を見たが、どう見ても良介には見慣れた顔というだけで特別美人には思えない。しかしガソリンで真っ黒に汚れた指は確かに長くて綺麗な形をしていると思った。


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