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良助
【青春 恋愛小説】

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1 裕子-1

1  裕子

 話は約40年前のことである。小山良介という少年が都内の公立高校に通っていた。
 ある日良介は同級生のマサルからセックスの写真を見たことがあるかと聞かれた。セックスというのは女の性器のことなのかそれとも男と女がやっていることなのか分からなかったが、どちらにしても見たことは無いので無いと答えた。するとマサルはブルーフィルムを見たことがあると言う。

 「女とあれをやっているんだぜ」
 「・・・」
 「あそこばっかり大きく写してて気持ち悪いんだ」
 「見たこと無いなあ」
 「写真は見たことあるかよ」
 「写真も無いなあ」
 「今度持ってきて見せてやるよ」
 「うん」

 その翌日マサルが良介を校舎の屋上に連れだして1枚の写真を見せた。それは男と女が結合しているその部分を大写しにしたものであって、多少ぼやけていることもあり良介には何が写っているのか分からなかった。顔も手足も写っていなくてただあの部分だけが大きく写されているからイメージが理解出来無かったのだ。じっと眺めていると次第にぼんやり全体像が見えてくる判じ絵を見るようにじっと見ていたがそれでも何がなんだか分からなかった。マサルは良介が一心に見続けている様子に満足そうであった。

 「これ何だよ」
 「え? 夢中になって見てると思ったら分かんなかったのかよ。だからあの写真だろ」
 「何処が?」
 「何処がってお前分かんないの? ここにチンポが写ってるだろ」
 「あ? これがチンポか。こんなにデカイのか?」
 「そこだけ撮ってるからデカく見えるんだよ」
 「するとこれが女のあれなのか?」
 「そうだよ。お前見たことあるか?」
 「無いなあ。こんな気持ち悪い物だったのか」
 「そうだぜ。お前写真だからまだいいけど映画で見てみな。もっと気持ち悪いぜ。それでも見ちゃうんだけどな」
 「うん、僕も見たい」
 「それは駄目だ。映画は持ち出せない。写真ならまだ他にもあるから今度持ってきてやる」
 「もっと全体が写ってる奴は無いのかな」
 「全体って?」
 「顔と手足が写ってるやつ」
 「何で?」
 「これだと全体がイメージ出来なくてなんか良く分からない」
 「贅沢言うなよ、お前。普通はもっとそこを拡大した奴は無いかって言うんだぜ」
 「それは良く知っている奴が言うんだろう。僕は良く知らないからこんな拡大写真だとイメージが湧かない」
 「あったかな? 顔なんて写ってんのは無かったと思うなあ」
 「顔は無くてもいいからせめて腹とか足とか写ってる奴」
 「それならあるかも知らん。まあ見てくるわ」
 「うん」

 良介は実を言うと女の裸なんて見たことが無い。裸の写真が氾濫している今とは時代が違うのだ。せいぜい際どい水着写真しか見たことが無かった。しかし水着写真だって良介はそれなりに性的興奮を味わっていた。けれどもそこから一挙に結合した男女両性のその部分の拡大写真というのでは飛躍があり過ぎて性的興奮には全然結びつかない。ただ物珍しいに違いない写真を今見ているのだなという興奮はあったが、それは性的興奮とは別のものだった。でもそれだけのことなのでその写真のことはすっかり忘れてしまって翌週の月曜日にマサルが
 「ご免な。写真はもう無かった。兄貴が返しちゃったんだ」
 と言ってきた時、なんのことを言ってるのか分からなかった。


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