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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-15

13

 僕はそのホワイトiPhoneに映る少女を見た。幼い──中学生になるかどうか──姫乃と対照的なほど漆黒の髪の毛を持ち、姫乃より一回り大きなくっきりした瞳を持ち、無邪気な微笑みを浮かべている少女に、僕はある種の興味を持った。着ている物は、可愛いキャラクターもののパジャマ。姫乃なら死んでも着ないだろう。第一胸回りのキャパシティが絶対的に足りない。

「この子はね、いわゆる『夢見るちゃん』でね。姫子って言うんだけど。一昨年死んだ。『進行性エリトマトーデス』っていう、いくらお金をかけても治らない病気。膠原病のなかでも最悪のやつ。姫子はそれと戦っていた」

 姫乃はさっきまでとは打って変わった表情を浮かべている。笑うのに失敗した泣き顔みたいな、残念な美貌である。

「高熱が続いて、筋肉がどんどん動かなくなる。好きな絵や文字だって書けなくなって、言葉もなくした。でもね、妹には、たったひとつ、望みがあった。それはね、『世界で一番綺麗な人と結婚したい』ってね。つまらない望みよね。馬鹿馬鹿しい望みよね。あきれて物も言えないわよね。でも、それのどこがいけない?」

 姫乃は僕の顎を掴んだまま、足下から頭の先までゆっくりと眺める。

「姫子の理想はね、女の子より綺麗な身体と顔を持つ、天使みたいな世界で一番美しい男の子。たまたまあなたが限りなくそれに近かった。でも、少し足りなかった。だから磨きをかけたのよ」

 姫乃は真剣極まりない目つきでこう言った。「ほんの30分。あなたが世界で一番綺麗になって、世界に向かって姫子に愛を誓えばいいの。簡単でしょ?」

 僕は何というか、何も言えなくなってしまった。
 死んでしまった女の子の夢を叶える?それにいったい何の意味があるんだろう。
 僕には何もない。友達も、兄弟も親戚も、家族だって。そんな存在価値のカケラもない人間が、何の意味も持たない「死人」の夢を叶える。誰がそれを認識するって言うんだ。誰も知らない死者のための舞踏。
 そんなのも、いいかも知れない。

 僕の心を読んだのか、天国からの了解を得たのか、姫乃は微笑んだ。

「さて、ご希望の服を用意しましょう」姫乃はまた指を鳴らす。今度現れたのは、細い眼鏡をかけた知的な黒服の女だった。

女は少し考えるように僕をぐるりと回り、大きなバッグから見たこともないチャコールグレイのボクサーパンツを僕の足に通し、やはりグレイのニー・ハイソックスを被せる。それからちょっとこれは、と思うような黒いレザーのショートパンツ、肩まではみ出そうな女物のシャツを被せる。短くて、おへそと腹筋が丸出しだ。耳になにやら高価そうなイヤリングを左耳にだけ嵌め、左腕に細い銀の腕輪を通した。それからまた考えるようにして、手を打ち、肘まで隠れる黒い手袋を僕の腕に通す。最後にマニュキュアを光らせる足の指先が見える女物の靴を履かせてから、頷いて部屋を出て行った。

「出来上がり。まあ、予想以上だったけど、このくらいじゃないと姫子には似合わない。いちご!伊集院に車を出させて」

 気がつかないうちに、いつものフリフリの服を着たいちごが顔を出す。そのまま凍り付いているのは何故だ。

「いちご!供養なんだから凍らないの。あんた、葬式の時に笑う口かね」

「そそそそ、そんなことありませんよう」

「だったら!ちゃんと働きなさい。出かけるのよ」

「はああああぃぃぃ」


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