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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-14

12

 好きで綺麗に生まれた訳じゃない。
 確かに母親は美人で僕に似ていたが、僕ほど「変」じゃなかった。そりゃあ、言葉が喋れないぐらい小さな頃なら、「まあ可愛いお坊ちゃま」で済んだ。それで平和だった。幼稚園にも保育園にも行かず、父母に雇われた保母さんが僕を昼間の間面倒を見てくれた。その時、何故か兄弟みたいにしていた影があったけど、それを僕は覚えていない。

「しーちゃんは泣きべそ君ですね」

「しーちゃん、ママもパパもお忙しいですか。いけませんねえ」

 僕は生まれつき喋らない子供だった。
 小学校に入学したとたんに僕はどこをどう間違えたのか、女の子の格好をしていたような気がする。淡いベージュのキャロットに短髪、みんなとは違って、ワイン色をした鞄を提げて学校に通っていた。体育は全部お休み。運動会にも出席しないし、遠足だって一度も行った経験はない。当然のことながら男子にも女子にもハブられる。気が付かないうちに僕は「病気」にされてしまい、最後には「かわいそうな、長く生きられない不治の病の同級生」にされてしまった。

 中には勘違いした女子がお見舞いに来たり、てんで勘違いの手紙をくれたりした。
 そっちの方が学校にとって都合がよかったのか。それとも親の希望だったのか。それとも何かの決まり事でもあったのか。
 僕が「男の子」として登録されたのは中学生の時だ。
 動物園の珍獣ならまだましだ。何しろ動物にだって雌雄はある。それがある日、可愛い美白の女の子がブレザーの制服を着て現れたのだから、それは立派な「事件」である。ただ、時を得ずして母親が倒れ、僕は毎日病院通いになってしまった。不思議な物で「終末治療(ターミナル・ケア)を受けている様々な人たちは僕に優しく、僕は僕の頭の中で考えていたことを気軽に口にすることが出来た。そして、僕は今までの孤独を吹き払うように饒舌になった。もともと、同級生や教師が怖いわけではない。いくらでも喋れるようになった。それを一番喜んだのは母親だったろう。
 母親が死ぬ直前に、「やっぱりお爺ちゃんの血筋を引いちゃったのね」と言ったことがある。それから、ある一冊の本のことについて。どこかにある、隠された本のことについて。
 僕のそれからは、今そのものだ。

「気が付いた?」僕の目の前10センチの所に緋鯉がはためいていた。

 僕は「鏡の間」の外の廊下にあるソファで目覚めた。まっぱで。辛うじてバスタオルが下腹に掛けられていたのが逆に恥ずかしい。両手を目の前にかざして、改めて見つめる。肉体労働や力仕事を何一つしたことがない上に、整形なのか、その両手は完璧だった。指のモデルって職業もあたっけ。

「とにかく」僕の声はなんでこんなに甘いのだろう?

「事情を説明してくれない限り、僕はここを動かないし君に従うつもりもないよ」僕はそう言って姫乃の奇妙な紅い眼を見つめた。

 姫乃は静まりかえった廊下で、大きくため息をついた。

「あなたが私の義弟になるのが、そんなに嫌かしら」

「思いっきり拒絶します」

 姫乃はその勝ち気な表情を曇らせて、頬杖をつく。気が付かなかったけど、こうしてアンニュイな姫乃はなかなか絵になった。
 姫乃は手にしたホワイトのiPhoneを弄んで、僕の目の前に突きつけた。新型のiPhone4だ。発売まで半年も遅れた曰く付きのハイパー玩具。そこに表示されていたのは高精細な一枚の画像だった。何というのだろう?心の中に春風がスパイラルになって吹くような、少女の画像。

「今回のミッションはこの子の恋人でかけがえのない友人で、一生を共にする夫婦になって欲しい。それだけ」

「んな、馬鹿な。──まあ、とっても可愛いけど。だけど、僕は女の子にときめかないことは知っているはずなのに。改めて言うけど、僕は同性愛者でヒキコモリでオタクの変態で君の妹に相応しい『お婿さん』なんかになれませんよ」

「あったり前じゃない。あんたみたいな変態にこの子を任せることは出来ないに決まってる。でもね、この娘の理想の姿形がたまたまあなたと同じなのよ」

 僕は瞬間的に逆上する。大きく口を開いたところで、姫乃の手のひらで押さえつけられてしまった。

「この子と会うことは絶対にないし、これからもそう。話すこともないし。まあ、運が良ければあなたの好きな深い海の中で会えるかも知れないけれどね」

 姫乃は僕の心を突き刺すような鋭い視線を僕に放った。
「とっくに死んでいるのよ。この子は。姫子は!」


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