僕は14角形-16
14
走り出したベンツ6.9の中で姫乃は静かに語り始めた。まあ、もともとそういう車だけど。
「ま、悪かったと思っているわ。でもね。解決の手段が見つかったなら、さっさとやる。それが私のやり方でね。それにね、これはちょっとしたアレンジに過ぎないし」
「拉致して本人の許諾無く、しかもコンプレックスの塊なところをさらに破滅的な整形。それがアレンジって言うのなら、日本はとっくに核武装しているよ」
「なんでもいいから！今日は姫子が天羽詩音に告白される記念日よ。あなたも男なら女の一人や二人幸せにして見せなさい」
「一人や二人って、僕はまだそんな経験無いし」
車の中のクッションが僕ののど元にヒットするのはほとんど同時だった。
車は高速道路を降りて、どんどん都会に出て行く。
「いちご、決めたから。原宿のタワーレコードの前で下ろしてね」
「え？はいい。伊集院、わかった？」
「かしこまりました。正確に循環しております。ご希望の時刻よりは最大で30分ほど遅れることをお許し下さい」伊集院はにやりと唇を歪める。「最も、5秒でも遅れるつもりはありませんが」凄い男だ、と詩音は驚嘆する。
タワーレコードに着いたときは、土曜日の午後という最低最悪の時間だった。あらゆる若い男女が極めて個性的あるいは類型的に実に華々しく闊歩している。
「あのー、姫乃さ、もうちっと地味な場所はないの？」
「ヤクザにカチコミくれるなら関西、ヤングに殴り込むならここでしょうが」
「ヤングって、何十年前の話だよ…」
「うっさいわねえ、ポップティーンとか読んで身体を締め付けて細くしている尻軽な女は大体この辺にうじゃうじゃいるわ。見なさいよ」
確かにマスカラで睫を倍増して眼球にまで塗っているんじゃないかというアイラインな女がダース単位でしのぎを削っている事はわかる。キラキラのスパンコールと蛍光色とお揃いのブーツに絶対領域。魚にしてしまえば金魚。とても食べられそうにない。
「じゃあ、姫子に恋した永遠の美少年、あなたはここで他のどの男より魅力があることを証明して、姫子以外には興味のない男であることを宣言する。解ったら出ろ！」