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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-13


「猿で練習したなんて、随分な嘘を言う人ね。南アフリカ人のくせに。見え見えじゃない。きっとケープタウンの下町には鼻の曲がったのとか唇が歪んだ黒人が山ほどいるわ」

 姫乃は、珍しくサーモンピンクの淡い髪の毛を後に束ねて、淡い茶色のコーディネートのブラウスに両手を当てて立っていた。

「初めまして、天羽詩音君」

 始めても何も、入学と同時に僕をいたぶった本人がしゃあしゃあとのたまう。ぱちんと指を鳴らすと、数人の黒服の男女が現れた。

「さあて、仕上げよ。指折りのスタイリストを集めたんだから」

 あれよあれよと言う間に僕は立ち上がらされてから椅子に座らせられ、奇妙きてれつな器具で得体の知れない液体やブラシ、名前も知らない器具で身体中をいじくり回された。

「あのお、メイクさんよりも、その。せめて服を支給してくれないかな」

「ミケランジェロのダビデが服を着ていますか?痴れ者め。」

「ルネッサンスの偉人に文句言うつもりはないけど、そもそも何で? 僕が? ここは何処で今日は何日の何曜日?」普段温厚な僕でも、この事態にはさすがにパニクって立ち上がった。いくつか顔や髪の毛にぶら下がった器具が床に落ちる。

「私の妹の婿になって貰うためには最低限の処置をしたに過ぎないわ。さ、さっさと終わらせるわよ。」姫乃はサーモンピンクの髪を踊らせると、僕の両肩に力を込めてドレッサーの前に座らせる。いくら年上だからって、女の子の力にも勝てない。やっぱりジムにでも通って必要最小限の筋力はつけなくては、などと思っているうちにメイクは進み、僕は停泊状態になる。潜水艦にとって最も怖ろしいのはドックに入れられたときと接岸している時だ。水中の悪魔も陸に上がれば昼間のフクロウ。

 それからまたパタパタとして、最後に眼の縁に何かされると、スタイリストはみんな居なくなった。手際と言い速度と言い、これは本物のプロの仕事だ。

「さあて、自分が何者かよっくご覧なさいな」

 姫乃はそう言うと、一室の扉を開けて僕を突っ込んだ。

 ちょっとよろめいてから、その小さな部屋に入る。そこはブラッドベリの小説に出てきそうな「鏡の間」だった。
 自分であることは一目でわかる。なにしろ生まれてからずっと付き合っているのだから。ただ、決定的に違う物がある。顔と、髪の毛と、身体だ。
 元から贅肉には縁がないけど、これはあんまりだ。つま先から腰まで、流れるようなラインはもはや男の物ではない。小さい頃に折った足の指まで完全に治っている。運動不足で筋肉は無いけど、それをトレースするような滑らかな肌に見覚えのあるホクロは見つからない。胸の乳首は脱色されたみたいにトルマリンのような淡いピンク色。指からは完全に皺が無くなっている。元から華奢だった首筋は、モデリングしたアニメの少女と少しも変わらない。多分、一流の美容師にカットされた流麗な髪の毛が踊っている。

 それでも決定的なのは。

 こりゃあ、やりすぎってものだろう。僕の顔からは性別が完全に欠落していた。
 三日月のように伸びやかな完璧な眉の下に、作り物めいた瞳が驚愕して僕を見つめている。硝子で作ったにしてはあまりにも本物の宝石が瞬きの隙間から宇宙の星団みたいに煌めく。その中央には細工師が何十年も磨き込んだ象牙のような美しい鼻筋が伸びている。それから、シロップの瓶に詰めてあったサクランボみたいな半開きの唇。
 思わず左に眼を逸らしたが、そこにも左斜め上から映された立ち姿。ぐるりと見回した結果、見つけたのは何十人もの性別不明の、ある理由で少年だとわかる物体だった。

「な……な、な、ななな何をした──あ」

 僕は床に膝を折って、両手をついた。動悸が止まらない。冷や汗がぬるりと顎から滴る。そして、顔の造作を辿ってみる。違和感はない。完璧に。
 僕の身体から、闘争心とか勇気とか努力賞みたいな気力が全部抜け落ち、魂は昇天した。まったく動けない隔離されたドックに横たわる僕自身。核燃料棒が溶けるみたいに、僕は鏡の部屋の中に沈没した。メインタンクから暴れるような気泡を吹き出しながら。


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