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「trip」 or Treat
【コメディ その他小説】

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迷走-2

「ちょっとそこで待ってろよ?」
息つく間もなく、履いてたスニーカーを脱ぎ散らかして家の奥に入ってくユズルくん。
せっかくのミニスカコスだけど、すっかり素にもどって外股で、ドスドス走ってく。
歩き回るユズルくんの気配以外、誰もいないみたい。だから、あちこちウロウロしてなにか探し回ってるらしい様子が、見えないけど想像できちゃう。

あわてて転ばなきゃいいけど。
なんて、心配しちゃう。

やがて、カサコソとどこかで何かを引っ張り出そうとする物音と「あったあった」というつぶやきが聞こえて、
ドタドタッ
嬉しそうに走って玄関に駆け戻ってくる。
と思ったとき。
「あイテッ」
リビングから玄関に出てくるドアのところでユズルくん、うずくまった。
と同時に、家のなかから探して持ってきてくれた物、音をたてて床に散らばっちゃった。

半開きで転がった透明のケースと、散らばった薬箱や消毒液、包帯、テープ。

すりむいたアタシを心配してユズルくん、救急箱を持ってきてくれたんです。
だけど。
「うお、痛てッ、いってぇえ」
アタシを助けたい一心で、あわて過ぎて足の小指をドアにぶつけちゃったみたい。
その場に座り込んで、ニーハイに包まれたつま先を両手で、痛そうに押さえてる。

「もう、あわてて走るからでしょ?」と、カカトを踏みつぶしたスニーカーを脱いで近寄るアタシ。このセリフなんだかちょっと、おかあさんっぽいカモだけど。
「うるさいなあ、オマエが先に転んでケガしたんじゃねーかよ……いっテぇ」
「わかったから、ちょっと手を離して見せてみなさい」
ちょっと、生意気なムスコを心配するお母さん気分カモ。
「ちぇっ、わ、わかったよ」
「はーい、じゃあ手をどけてー」
お母さん気分だけじゃなく、お医者さんの気分も混じってるんです。
ユズルくんの手首をつかんでアタシ、そっとつま先から引き離そうとする。
「うわオマエ、手ェスゲー冷たいな?……ソレに」
「な、ナニよ?」
「指先カサカサだぞ?……いつも家事とか手伝ってンのかよ、洗い物とかさ?」
なんて言うもんだから、実年齢がバレるかもとドキドキしてしまうけれど、
「そうだよー、お料理はまだまだだけどねー」
と、本当は食器洗いや洗濯物は寝坊で大雑把なアタシ担当で、お料理やお掃除は早起きで几帳面なムスメのアカリ担当なんだけど、そこも含めて上手くごまかした。
「ふうん、オマエも大変だな」
ユズルくんもナットクしてくれたみたい。いちおう誉めてくれてるみたいだし。(ただし、ムスメのアカリの方を、だケド)

「もう、馬鹿なこと言ってないで、見せて」と、照れ隠しにアタシ、そう言って。
両ヒザをたててしゃがんだユズルくんの、足の先に目を向けた。
ボーダー柄のくつしたの先端に小さく、血がにじんでる。

「ど、どうなってる?」
と、ユズルくん、素直に目を閉じて、アタシの診察を受けてる。
男の子って意外と、自分の痛いのとか、傷口とか見れないみたい。
「ちょっとだけ血が出てるけど、くつした履いてるとわかんないから……自分で脱げる?」
と、ちょっと意地悪く質問するアタシに、
「いや、わ、悪いけどちょっと、手伝ってくれるかな?……たのむよ」
なんて、痛さのせいで弱気になってるユズルくん、両手を合わせて拝んでみせる。
女装コスとは全く噛み合わないけど、チョッと可愛いカモ。

「わかったから、じっとしてて?」とささやくアタシに
「うん……」と、うなずいて、ぶつけた方の右足だけをヒザ立てると、ユズルくんは床の上にあお向けに寝転んだ。


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