暴走-1
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▲ 暴走
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カレが頭にかぶったままの紫色ヘアーのウィッグの髪が、フローリングに広がった。
冷たいアタシの指先が、ユズルくんのニーハイのてっぺんのゴムの部分に、触れる。
「ゴクリ」と言ったの、ユズルくんのノドだったみたい。
絵的には、お姉ちゃんのくつしたを脱がそうとしている弟が、お姉ちゃんの足の付け根付近の絶対領域に触れている場面だろう。
けど脱がされそうなのはミニスカコスで女装してる小学6年の男子で、脱がそうとしてるのはアラフォーのシングルマザー。(しかもこっちは男装コス)
年齢差は限りなく2回りに近い23歳差。
脱がそうとしてるソックスのすぐ上には、ミニスカワンピースのスソに隠れて見えないけれどもちゃんとソコに存在してるハズだし。
ちっちゃくても、りっぱな男の子のモノが。
この瞬間に誰か訪ねてきて、玄関のドアを開けられたら。
訪ねてきた、っていうか、この家のユズルくんのお父さんかお母さんが、帰って来たりしたら。
きっと、アタシの正体もムスメじゃなくってその母親だってバレて。
いやいや、誰も帰ってこなくっても、いつユズルくんにバレたってチッともおかしくない状況。
ただどっちの場合も、
アタシの人生、糸冬 了。
少なくとももうこのマンションには住めなくなるだろうし、下手をすれば警察を呼ばれちゃって。ムスメは中学入学前に転校だし、アタシは月々の手取額18万9千円、半径50km圏内交通費一律6千円の会社をクビだろう。
そんな危険と隣り合わせの後ろめたさが、アタシのドキドキを加速させる。
いやいやいやいや。
違うから。
あくまでもユズルくんを心配して、献身的に診察してるだけだから。
あくまでも献身的に。
そぉっと……
「あっ!?」
「な、なに?」
目をギュッとつぶって声をあげるユズルくんにビックリして、手を離す。
「やっぱオマエ、指冷てえよ」
「うるさいなあもう……手の冷たい女の子はねえ、心があったかいの!!」
「ウチのオカンみたいなこと言うんだなオマエ」
……ドキッ。
「ババアかよ?」
いやいやババアじゃねえし。
でもオカンなのは当たってるケド。
「はいはいババアですよ……言っときますケド、手の冷たい女のヒトの話し、ウチのママの受け売りだから」
そう誤魔化しつつ、再びニーハイに手を掛けて、
クルクルッ
と丸めて、腿の付け根から足の先に向かってソックスの片方を脱がしにかかる。
「うひゃ、く、くすぐったいよ」
「うーるーさーいー」
とアタシ、ユズルくんを黙らせつつ、「コイツ男のクセにスネ毛少なくねぇ?」と妙に感心しながら、細い足首からくるぶしまでをあらわにする。