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「淫らにひらく時」
【若奥さん 官能小説】

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「淫らにひらく時」-6

「絵を描いてるって、どんな絵を描くの?」

かなり落ち着いた。いや、本当に一時はどうなる事かと思って、冷汗がにじんだ。
席に戻った私はカップと水をなぜか交互に口をつけながら、今日会ってみた彼に話しかけた。
なんだかお行儀悪いように思えたりもするのだけど、本当にコーヒーを賞味する時には味覚が慣れてしまわないよう、水とお茶を交互に口にするという話を聞いたことがある。

「いやぁ、下手の横好きってやつで他に何も取柄がないもんだから、ついそう言っちゃっただけですよ。」

思った通り四十半ば、といった感じだろうか?彼は物腰柔らかな雰囲気を持っていた。
言葉が優しくて、逆に硬くならないよう気さくに話しかける私が若い娘みたいな雰囲気がする。
頭の中心から、やや左に分けた長めの髪には白い物がちらほら目立って来ていて、裾を綺麗に整えているのがお洒落に思えた。
どこにでもありふれた四角い眼鏡が細身の輪郭によく似あい、細いわりにはずいぶんとゴツゴツした指先をしている。
芸術家の手とはこんなものなのかも知れない。

「見たいなあ。油彩とか描いてるの?」

「あぁ油彩もちょっとやってみたけど、あれはお金も時間もかかりますからね。僕は木炭が主ですよ。」

近隣の喫茶店はどうもバツが悪い。
おなかもすいてきたのでどこか居酒屋で程よくお酒を飲んでエッチに持ち込むつもりだったけど調子が狂った。
食事でもしようと言えば、彼は民家を改装したような小さなレストランに連れて行ってくれた。
予約制なのだ。
暗めの照明にテーブルが四つ。そのうち私たちを含めて三つは埋まっていた。
壁には薄い緑色のペンキが塗られていて、それが経年の焼け付きというか剥げかけたような雰囲気を演出させていた。
そんなに古い建物でもないことは一目でわかる。
彼は今日のためにこれを予約までして、私は今日のために偽の女子会を企ててきた。
なんだか・・・あてが外れてしまう。
冷製スープもエビのサラダも、何かこってり煮込んだお肉の塊も本当だったらもっとおいしい物だろうけど、すべてが手をかけた偽物に私には感じられた。

「モクタンガって、どこかの偉い和尚さんが描くような絵とはまた違うの?」

「うん・・・っ水墨画とはまた違って、きめの粗い紙に乾いた炭で描くんですよ。まあ、タッチは似てるといえば似てますが・・・」

「展覧会とか出したりするの?」

「そんなたいした物じゃないです。まあ、公募の展示会には何度か出展したこともありますけどね。」

芸術家をじっと見る。なるほど見た目にも芸術家っぽく見える。
芸術家って、どんなセックスを好むのだろう?
なんていうのか、何かに秀でている人は他の事にあまり頓着持たないような。
あるいは情熱的で感情的でヤリたくなったら、なりふり構わないとか・・。
それは私の偏見というものだろうか、あるいは彼が自分でいうように「たいした物」ではないのだろうか?

「絵が好きなんですか?」

「ううん、よくわからないけど絵が描ける人は何か特別な気がするの。」

「見てみますか?お気に召すかどうか分かりませんが。」

タクシーで世田谷まで向かった。
レストランの清算ももちろん、彼が出してくれたのだけど結構な金額となった。
これだけかけてセックスができなきゃ、男としていったい何をしているのやら分からない。
きっと、セックスを要求してくるだろう・・・そんな邪推は私の了見だけの物だろうか?
それとも、こうして体よく自宅に誘い込むことが彼の画策で私は上手い具合にそれにひっかかる。
そんな風にいろいろと思惑を巡らして私は無口になる。
カズサが自分の彼とくっついて何か囁き始めた頃。
その彼の友人に促されて、気を利かして席を外してやる時の私もこんなだった。



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