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梟が乞うた夕闇
【鬼畜 官能小説】

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-3

 ビルの出口を一歩踏み出したところまでやや距離がある。左から吹く風に加えて、ビルに近づけば壁が起こす複雑な気流が渦を巻いているだろう。しかも撃ち下ろし。当てるのは難しい。だが、当たれば弾道の逆算は容易い。
「……三時ごろに美羽が出てくる。そこへ危険なんとかっていうのが大好きなチンピラがやってくるの。コレと同じオモチャ与えられてね」
 深雪は狙いを定めていた銃身を一旦下ろした。「美羽を殺ったら、オクスリたらふく食わせてくれるって誰かにそそのかされてるから。でも二丁ともフルでは弾入ってない。そしてコノ子には三発入ってる」
「チンピラたちに任せては? 至近なら一発くらい当たりますよ」
「ラリった連中の九ミリ乱射が致命弾になると思う? 必中しなきゃね。……で、射撃は得意?」
「訓練で撃ったことあるだけです」
「へぇ、じゃ、よろしく」
 深雪はもう一つ用意していた男物のグラブを押し付けてきた。
「俺がやるんですか?」
「カヨワイわたしにヒトゴロシさせるのぉ、ヒドぉい」
 語尾にハートがついたような声を上げた深雪だったが、顔は冷たい微笑みを浮かべていた。黒目に有無を言わせない光を宿している。
 何を言ってもやらせるつもりだ。
 するとまた勃起してきた。深雪の側の膝を立てて股間を隠す。ヒトゴロシの現場で一層輝いて見える深雪の佇まいを全身の神経を研いで感じた。股間を震わせる血潮が心地いい。この時間がずっと続いて欲しい。美羽なぞ、一生あのビルから出てこないでいい――
「――で、話の続きなんだけど」
 深雪の声に我に返らされる。
「まだこだわってるんですか? 覗いたか」
「違う。……あんた、何でウチに来たの、って件」
「自分のキャリアのためだって言いましたよ?」
 何のために来たか。それは今、変わった。
 こうして女子大生のようなラフな格好をしていても漂ってくる大人びた薫香に懈ゆとうて、重くはない筈のグロックをズシリと感じていたいからに決まっている。
「あんた、ウチの組織、どんなんだと思って入ってきたの?」
「それも言いました。官房の命令に従い、世間に知られないように体制に害なす輩を取り締まるんです」
「内偵活動がしたかったの? 悪の巣窟に入り込んで、スパイ活動。カッコいいっ。あ、ほら、出て来たよー……って! アイツ、今日いないなずなのにっ」
 ビルの入口が開くと、まず先頭の男を見て深雪が舌打ちをした。道路に出て、外の様子を如才なく確認している。
「なかなかヤバそうなオーラ出ていますね。やめますか?」
「だめ、作戦続行」
「っていうか、俺、美羽の顔知りませんけど」
「ヤー公だよ? 見りゃ分かるよ、んなもん――」
 悲鳴が聞こえた。
 道路の向こう側から原付に二人乗りした、いかにもなチンピラが奇声を上げてやってきた。すれ違いざまに買い物帰りの主婦を蹴飛ばすと、天に向かって発砲した。
「来るの早いよ、バカッ。無駄撃ちもすんなっての!」
 深雪が愚痴ると、ほぼ同時に、確かに見れば分かる、美羽が出てきた。両側に並んで礼をして見送ろうとしていた男たちが、異変に気づいて道路に飛び出してくる。
「美羽ぁっ!」
 撃つつもりなら相手を呼ぶべきではない。そんなことも分からない頭脳レベルならば、深雪の言う通り、結果は期待はできそうになかった。
「――ところでさ、あれでしょ? 潜入捜査官の女がさ、ピッチピチ、テッカテカのツナギ着てさ、敵のアジトに潜り込んだら捕まって、男たちにいたぶられるAVが好きなんでしょ?」
 チンピラたちはビル前に停まると、笑いながら銃口を向けて引金を引いた。タン、タンと、軽い音が立つ。美羽を庇って前に立った取り巻きの一人の足に当たった。その様子を眼光鋭く覗いていた深雪は、横目で見た陽介と目が合うと、そんなことを問いかけてきた。
「それは嫌いじゃないですけど、今ですか、それ」
「嫌いじゃないんだ、ヤッバい、ドン引き。言っとくけどそんな目立つコスチューム、備品にはないし、私物でも持ってないからね」
 深雪も高揚しているように見えた。「ねー、でもさ、内偵目当てで来たんなら、もっかい異動願出したほうがいいよ。何てったってウチは命令されたら、内偵だけじゃなく、ほら、こうして暗殺までやっちゃいまーす」


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