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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』-3

映写機は、養父・志郎と麗女の人智の及ぶところではない淫猥にして苛烈な映像を流し続けた。
 その中で志郎はたったの一言も喋ることはなく、彼女からなにかを貪り尽すかのように、陰惨な責め苦を続けていた。
 初めこそは悲痛な叫びに喉を震わせている映写機の麗女も、何度となく繰り返される責め苦の中で、いつしか果てを越え、正気を失ったかのような性の悶えを繰り返した。信じられないのは、回数を重ねるにつれ瞳が生気に満ちてゆき、まるで幸福の快楽を味わっているかのように、身悶えするほどの羞恥の中で、それでもその責め苦を悦んで一身に浴びている女の姿である。
(………)
 浩志とて、男女の仲について知らぬ初な少年ではない。この映像の中にある二人の間に、深い愛情と信頼が存在していることを悟っていた。たとえそれが、ひどい歪みの中にあるとしても。
 だとしたら、どうしても解せないことがあった。
 ないのである。志郎が、自らの欲望で女を愛する映像が。
(ただのSM好きって、わけじゃないだろうし……)
 普段の養父を思うに、既に信じられないほどの衝撃映像が繰り返されている中、浩志はいつのまにか正常な思考を取り戻していた。そして今は、純粋にこの映像を愉しんでいる風でさえある。
 なにしろ、画像効果もヤラセも一切ない、純度100%のポルノ映画である。思春期の真っ只中にある浩志が、噛み付くようにそれに夢中になるのは仕方もなかろう。それに拍車をかけるように、彼は春を迎える前に、何度か身体を重ねるほどに親密だった恋人と破局したばかりだ。
(………)
 しなる鞭の音、女の悶え、何度も飛び散った様々な汚物と、肌の上を跳ねる淫らな汗。
 映像の中で行われている淫靡な世界に、浩志はかすかに湧いた疑念も何処かに、身体の疼きと激しい性の飢えに喉を鳴らしていた。
「あっ」
 身体中に赤蝋燭を纏い、赤い胸の尖りを鉄クリップで挟まれ、前後から激しく汚物を撒き散らしながら、異常な性の果てに女が身を震わせたところで、長いインターバルが出来た。
(終わった、のか……)
 安堵とも、落胆ともつかないため息が出そうになったとき――――
「え、あ、あぁ!?」
 驚愕の映像が、飛び込んできた。
「の、望さん!?」
 知っている女性が全裸のまま、大きな水車に大の字になって張りつけられていたのだ。
『だ、旦那様……こわい……』
『………』
 例の如く、男は一切喋らない。見ればそこにはだいぶ老けた感じの、仮面をつけない志郎がいた。
(最近の……)
 撮影だということがこれでわかった。なにしろ、今現在の志郎がまさに映像の中にいるのだから。
『あっ、や、やだっ……』
 がく、と水車が、志郎の操作によって何段か下ろされた。そのため、今まで見えなかった下方の部分が露になった。
「!?」
 水槽になっていた。
 望を縛りつけたまま、水車はその三分の一ほどが水槽の中に沈みこんだ。
『あ、あ、や、あ……――――――――!!!』
 ゆっくりと回転を始めた水車は、望の身体を傾かせ、そのまま容赦なく彼女の頭を水の中へと引き込んだのである。
『がぼっ……ぶ、ぶぐぅっ……ぶぐぶぐっ……』
 丁度、首の部分まで水に浸かり、水面が激しく荒れた。湧き出すような空気が泡を作り、何度も弾けて、彼女の必死の呼気を水上へ押し出していた。
『……ぶっ…ぐぶ…………ぶはぁっ!』
 泡の勢いが弱まったところで、志郎は水車を廻し、望の顔を空気中に晒した。
『はぁ……はぁ……っ…げほっ……げぼっ……』
 これ幸いにと、必死に胸を上下させて空気を飲み込み、侵入してきた水を吐き出す望。その顔は真っ赤に染まり、生命の鉄則をひとつ止められた苦しみの強さを物語っている。
『げほっ……ごほ、ごほっ……っ! あ、あ、あ……んぶっ………―――――』


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