J-6
え?え?
私、あの人をナンパしたことになってるの?
落ち着いてここ5分に起こった出来事を歩きながら整理した。
あの「お疲れ様」の間違った一言は
ナンパ扱い?
それはビックリだけど。
向こうが私を分かったって事がビックリだ。
「まぁ、勘のいい人なら気が付くか」
そう独り言を言いながら
手の中に残った名刺をもう一度ゆっくり見る。
何回見ても、有名なその会社名にため息をつく。
「横浜ホールディング・・・か」
これ、どうしたもんかな。
電話、するべきだろうか。
「まさか、この会社とは、ね」
あの会社の従業員数は半端ないから
この中にも結構な確率でいるんだろう。
そう思いながら周りの人たちを盗み見る。
お姉ちゃんに電話してみようかな。
私より1時間ほど早く家を出た姉の顔を思い浮かべた。
「まさかお姉ちゃんと同じ会社とは、ね」
私は名刺をそっとカバンにしまった。