投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「あなたに毒林檎」
【SM 官能小説】

「あなたに毒林檎」の最初へ 「あなたに毒林檎」 8 「あなたに毒林檎」 10 「あなたに毒林檎」の最後へ

「あなたに毒林檎」-9

テーブルの上に置かれたレモン入りの氷水はグラスからしずくが垂れワンポイントの黄色が爽やかで、見た目にも美しいひと時の幸せだった。グラスを手に取り冷たい水を喉に流し込むと身体中にビタミンC入りの水が染みわたり大きな”ほっ”という文字が飛び出しほわほわと宙を舞いあたりをさ迷った……。
 ”ほっ”が消えかけようとしていた時その文字は”ゲ!”という厚みのある大きな縁取りの文字に変わりテーブルを挟み2個はす向かいに座る老人男性の背中に突き刺さった! ゲゲゲ!!! そして、もっとドスドス突き刺さっていった。

 文字攻撃の被害にあったのは背の高い猫背のじーさま……。そう、あいつだった! 私が捜し求めていた御仁は目の先数メートルの所に居て何かを食していらっしゃる、もそもそと背中や肩が上下し奇妙な動きはまさか皿に直接舌を立て舐めているのではと思われたが、私は焦りだしていた。どうする? どうしよう?
 隣の空席においたバッグの中の林檎がこの上なく憎らしくそいつにぶつけてやりたい気持ちでいっぱいになったが、そんなことは出来なかった。何事にも確認という事は大事なのだ。あいつが一体何者で私になんで毒林檎? を食べさせたのか?なぜあの林檎が私の物なのか、訳を知るまでは……。

 そうこうしているうちに特製オムライスが届いたがどこが特製なのか味も香りも見た目も、さっぱり判らず手だけをせかせか動かしスプーンを口に運んだ。目はゴウゴウト燃え、奴の動きだけを追った。近くに立っていたウエイトレスはなんだか冷ややかな目で私を見ていたように思えたが、じーさまの食事はいつ終わるかわからない……。こちらとしても早急に事を進めねばならない……。

 思いのほか背の高いご老人はゆっくりと弧を描くよう身体をゆっくりと起こし水をお飲みになっておられる。どうやら食事を終えたらしく、その満腹感がこっちにも伝わってきて私も口に運びかけたスプーンをパタリと皿の上に戻した。彼はきっと運ばれてきた料理を綺麗に丁寧に丹念に、米粒一つ残さず食べ尽くしているに違いなかった。

 老人は振り向き手招きした。私はドキリとして目を逸らそうとしたが逸らす事はできずにその老人と目が合ってしまった……。ひと時の永い沈黙が生まれたが、彼の目は私にではなく後にいる元気の良いウェイトレスに向けられていた。

「お嬢さんお水のお替わり」
ウェイトレスはそそくさとトレイにグラスを乗せると老人の元に水のお替りを届けた。

「おじーちゃん、今日も元気そうだね、いつも綺麗に食べるねー」と、ウェイトレス。

「私は毎日林檎を食べているから元気なのです。お嬢さんのもあるけど食べる?」と、老人。

「いいの、それはおじーちゃんが食べていいのよ」と、にっこり微笑むウェイトレス。

「御代は幾らだい?」

「1280円になりまーす」

「じゃ、ご馳走様ーまた来ます」

 老人は財布を取り出すのかと思いきやお替わりの水をグイと飲み干すと、そのまま席を立ち店の外へ出ようとしている……。
そして私を見ながら満面の笑みでこちらに向かい歩いてくるのだ。
私はドギマギしながら息を飲み胃の中の特製オムライスが口から出てくるのを必死で押さえた。
老人は私のテーブルの前で立ち止まり話しかけて来た。

「お嬢さんもべる? あなたの分もある、まだまだいっぱいあるよ……」と、囁いた……。

 自分の顔が見る見るうちに蒼ざめていくのが判った。そのやり取りに気付いたウェイトレスや店長はすかさず飛んできて老人の背中を押しつつ

「おじーちゃん!また何かした? すいませんねこの人私の父でして……少し、ですね……スイマセン、スイマセン」

 店長やウェイトレスは頭を何度も上下させ老人のやった非礼を詫びに詫び店内は一瞬騒然となってしまい、特製オムライスは無料となったが、私はそのおじーさんがやっぱりただの人で痴呆なのか頭のいかれた人なのか正確には判らなかったが、こちらの猛烈な思いにピリオドを打つには充分でその店を後にした。


「あなたに毒林檎」の最初へ 「あなたに毒林檎」 8 「あなたに毒林檎」 10 「あなたに毒林檎」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前