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「あなたに毒林檎」
【SM 官能小説】

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「あなたに毒林檎」-8

私は、自分のそんな姿を鏡で見つめハッとし我に返った。そうだ、あの果物屋に行こう! 何かヒントがあるかも知れない、そう思い立った私はバタバタと髪を直しお気に入りのルージュを塗り服を着替える。
 ドアに手をかけたときチラリと産みたての林檎を持って出ようかどうか悩んだがやっぱり置いておく事はできず紙袋に入れバッグに押し込んだ。果物屋は少し歩いた商店街の中にある。だがこのあたりに住んで1年しかたっておらずまだまだ行っていない店も知らない道も路地もある。たまたま迷い込んだ路地裏の果物屋だったが多分行けばなんとかなるかという安易な思いでドアを閉め鍵をかけた。

 外に出ると秋口の良い天気で吹く風が心地良く肌の露出した部分に当たる。長い髪がさらさらと揺れ彼に弄られるところを想像した。髪を撫でてくれる彼。髪を指に絡め弄ぶ彼。髪を口に挟みするすると滑らせる彼。私の顔が良く見えるように両脇に寄せてくれる彼。髪にキスをしてくれる彼。そして、きつく髪を掴み揺さぶりかける彼……。

 私は顔を赤らめた。
「俺の言うことを聞きなさい 鞠」

 その言葉はかなり衝撃的で身体はいつでも反応してしまい膣の奥からドロリとした熱い塊を吐き出しそうだったが、今は忌々しいりんごのことを最優先にしないといけない……。
それはそれは悲しい私の物語……。一生この症状が続くのだろうか? 私はこのままずーっとこの秘密を抱えたまま生きて行くのだろうか?
溜息は後を絶たず私を混沌とした赤と青の混ざる紫の世界に引きずり込んでいく……。

 全ての始まりがあのじーさまだとしたらあの人は一体何者?
姿を変えこの世で一番美しい女を抹殺するために過去からやってきた悪い女王?
すると私は玲子よりも美しい白雪姫か? 悪くはなかったがまた妄想壁だと、どよ〜んとした気分になってしまった。
 頭を垂れれぼとぼと歩いていると商店街の大きなアーチ型看板の前に辿り着いていて、はるか先まで伸びひしめき合う商店街を眺めた。
 さしずめ映画ならクレーン操作のカメラが私の顔のアップからアーチ型看板をなめ一直線に伸びる商店街の空撮を撮っているかもしれなかった。私はおかしな宿命を持つ悲劇のヒロインで林檎を産み落とす女、鞠絵(まりえ)。
監督は鈴木清順でシュールなコメディになるかな?……。

 商店街に挟まれた道路をきょろきょろしながら横に伸びた路地を探したがどうも良く判らなかった。
なんとここの商店街は近県でも類を見ない長さを誇っていて、駅で例えると3個分くらいの距離を平気で歩く覚悟が必要なのだ。しかも左右に伸びている路地はそのまま区画整理されていない住宅地へ続いているらしかった。

 偶然立ち寄ったあの店を探すのは至難の技で下手な考えだった。判ろうはずが無かった。
店の名前なんて覚えていなかったし記憶の糸をたぐり寄せても何も出てこない、出てくるのはいやらしい顔したじーさまのほくそえむ顔ばかり……。その顔が目の前にちらついては消えてゆく。果物屋は2−3件見かけたがどこにも注意書きのある林檎など置いてはいなかった。危険な林檎を売ることなどありえないのだ。

 あの時のことはただの白昼夢?
私が林檎を産み落とすのは定めで、この秘密を守り通せという神の啓示なのだろうか? 神様って言うより悪魔かな? 生まれたてのDNAにちっちゃなナイフを付き立て小さな毒林檎を仕込む悪魔……。
 いつかその日が来たら生まれてくる仕掛けになっていてこれから何万個の林檎を産み落とそうとも私は文句を言えないのだろうか? 

 お腹がぐうと鳴った。朝から食べずに動き周ったからで携帯の時計を見ると12時近い。揚げ物の匂い、お漬物の匂い、香ばしいパンの香り、大好きな佃煮の匂い、爽やかな果物の香り……。良い匂いのする商店街は私の食欲を増した。バッグの中には林檎が1個。どこか落ち着ける場所で食べてしまおうかと思ったが、大きく頭をかぶり振り、怖いよ〜ブルブルブル、と呻いた。

 私はこの先の商店街をぼーぜんと眺め、たまに入る洋食屋を思い出し来た道を戻った。数分歩くと通路の右肩にアイボリーホワイトと淡いブルーのストライプで塗装を施された外見が見え始めた。どこにでもありそうな町の洋食屋に私は滑り込んだ。
 扉を作り付けのベルがとカランカランと鳴り、いらっしゃーいという元気の良いウェイトレスの声が響いた。
ここの料理は何を食べても外れが無く案外美味しい。いつ来ても老若男女で溢れていてランチタイムも賑わっていた。店内に入ると一つだけぽっかり開いているテーブルに座り込み、ウェイトレスが水を持ってくるのを待ち特製オムライスを注文した。


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