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自立の代償
【ロリ 官能小説】

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疲れた教師の日常-1

今日も一日、何とかやり過ごせますように。廻田聡真(かいだそうま)は、何の信仰がある訳でもなかったが、今朝もそう心に祈り、家を出た。外は爽やかな五月晴れだった。
就いた仕事は三年間続けろと世間では言う。また、何事も十年経って一人前だとも言う。大学を卒業してすぐ高校教師になった聡真は今年で三十三歳。仕事の十年目に当たっていた。大学進学しなかった友人には、もう十五年ほど同じ仕事を続けている者がある。
聡真は重い気持ちで担当の進学クラスの戸を開け、朝の連絡を淡々と、しかし笑顔で済ませると、早々に職員室へと引き上げた。自分の席に腰掛けるとまず、時計を見た。そして今日の時間割を確認し、どれだけ空き時間があるのか、何時頃には帰れるのか、一日の流れを思い浮かべてみた。
生徒の顔を見ることにも授業をすることにも喜びはなかった。美術部顧問をしていたが、それも然りであった。
いつからこうなったのか。夜までとことん生徒と付き合って活動していたかつての自分を振り返ると、今の自分の一種の無能さに聡真は呆れる思いだった。
とにかく帰りたい。休みたい。それが聡真の心の、職場での基調なのだった。そろそろ自分に終わりが近づいているかのような気分だった。

「先生、人物画のコツってありますか。」
昼休みに、部員で一年生のマーヤが職員室に現れた。この女子は、ほとんど毎日、休み時間には聡真のところへ、ものを尋ねに来るのだった。
マーヤは黒い瞳の、黒髪をおかっぱにした細身で小柄な生徒だった。顔つきは子供っぽいけれど、整っていた。人数不足のため存続の危ぶまれている美術部の中では活動的なほうだったが、絵に情熱があるというよりは、最初から聡真に興味があったように見えた。
こんな生徒は、所によらず時代によらず、高校には必ずいるものである。そして、高校の若い男性教師と言えば、女子生徒との色恋沙汰で一悶着あるというのが世間のイメージだ。女子生徒のほうも、「女子高生」のブランド名を掲げて、あらゆるメディアで大人との関係を取り沙汰されること、枚挙に暇がない。
実際、聡真の後輩に当たる或る教師は、顧問の女子バスケット部の生徒から告白されただけでなく、悪く言うとストーカーじみた追い掛けを受け、その後、その女子生徒の友人に告発されたかどで退職していた。連絡も絶えた。今はどうなっているのか、当てのある筋に聞くのも何だか聡真には恐ろしく、分からないままになっている。
「あたし、男の人がうまく描けないんです。」
聡真は内心、面倒だと思いながら
「誰か捕まえて練習したら? とにかく数をこなすことだよ。」
と答えた。
「顔はいいんですけど、体が。肩とか難しくて。」
「写真でも見れば。」
「先生、モデルになってくれませんか。」
「時間がないからなあ。」
この曖昧な答え方が聡真のいつもの調子なのだった。それが、マーヤのような生徒には、想像の遊びに広がりを与え、喜ばせた。この態度は優柔不断なようで、生徒に考える余地を与えることになっていたから、マーヤでなくとも、聡真は大抵の生徒の信頼を自然と得ていた。
そもそも、何をするにも人任せなところが聡真にはあったが、それで何の問題もなくこれまで来ていたばかりか、むしろ上手く行くことの方が多いのだった。ただ、心身の不調だけはどうにもならなかった。
「あたしも先生のモデル、してあげます。」
「今はいいよ。」
他の教師の目を気遣って、置いた距離ではあったが、この生徒が一線を越えてくるのもあと少しであると思われた。どのように躱そうか。いや、そもそも自分はうまく躱せるのか。世間の想像と違い、いや、その通りなのか、高校の女子生徒など、まず体から求めてくるものなのだ。断れば、周囲を巻き込んで荒れる者さえ珍しくない。どう転んでもこれから起こりそうな面倒事に、聡真は憂鬱になった。ただ、若い女の体が魅力に欠けているはずもなく、二人のほかに人間が関わらないのなら、すぐにもマーヤの期待に応えてもいいと聡真は思ってみた。もちろん、何もなければ、それに越したことはない。
その日の放課後、結局、聡真は部活に顔は出さず、部長から終了の知らせを聞くと、部室を見ることさえしないで帰宅した。


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