始-3
それ以上吉野さんは一言も話さずに
黙々と帰り仕度をして
いつものように、私の方はほとんど見ずに
「何か着てから寝ろよ」
と、お決まりのそのセリフを言った後、部屋を出て行った。
トワレの匂いだけをかすかに残して。
何よ・・・・
そんなに風邪をひくのが心配なら、ずっとこの部屋にいればいいじゃない。
私が何かを着るまでいればいいじゃない。
いつもいつも、私が何かを着るほどの時間もいない癖に!
心の中でそうつぶやいた途端に涙が出てきた。
部屋に行ってみたいって思っちゃいけないの?
ただそれだけなのに、なんで最後にする話になってるのよ。
オ、オンナは感情的な生き物だって知らないの?
私より3つも上でしょ!
いつものように、笑いながら優しく無理なんだよって言ってくれれば
それで終わりだったんじゃないの?
「う・・・う・・うっ・・・」
オトコの事で泣くなんて。
いったいいつ振りだろう。
しかも、恋人ですらないオトコなのに。