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BLOOD LINE
【女性向け 官能小説】

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2-3

「富岡さん、この後仕事?」
「いや、特にないけど」
「じゃ、ご飯付き合ってくれない?昨日から何も食べてないの、さすがにお腹空いたわ」
結子が着替えると言うので、富岡は早々に部屋を出た。玄関の踊り場からは殺風景な住宅街が見えた。海は反対側なのだ。ジョンソンはこの部屋にも来たのだろうか。
あの狭い6畳ほどの部屋で彼女を抱いたのだろうか。自分でも形容しがたい感情がにわかに湧き上がった。
おまえにとって、日本人の女は簡単に寝て簡単に捨てられる存在だったのか?肌を合わせた男が一言も告げずに去って傷つかない女がいるわけがない。わからない、と表情を変えずに答えた結子が富岡には痛々しかった。


「何を食べたい?」
結子と並んで歩くとすらりと背が高い。今日もスキニーデニムだ。Tシャツから伸びた腕は、細いが硬く締まっていた。
「肉」
「肉?病み上がりで?」
「美味しい店があるの。こんなでっかいステーキが出てくるの」
手で楕円を作って見せた。
駅から国道を横切り、海に平行して歩いた。花壇があり、海を眺めるためにベンチが等間隔で置かれている。夏の夕方。友人や恋人と楽しそうに話す人々。
すぐそこには、物々しい軍艦が停泊している。間近で見るとその大きさは圧倒的であり、嫌がおうにもここが軍港であることを感じる。米軍とは切っても切れない街なのだ。外国人家族も目立つ。
「いい公園だ。気持ちがいいや」
「富岡さんはどこに住んでるの?」
「中野坂上」
「遠いわね」
「でも編集部は水道橋だから地下鉄を使うと1時間ちょっとだった」
店は平日でも混みあっていたが、スタッフは結子を見ると急いで席を作ってくれた。
「大変だったね。結子ちゃん、大丈夫か?」
「何にも大変じゃないわよ」
スタッフの男はちらと富岡を見た。
「ちょっとね、知り合いなの」
結子はメニューを富岡に渡した。彼女は注文しなくても店側がわかっているようだった。
結子にはTボーンステーキ、富岡にはサーロインが運ばれてきた。なるほど、アメリカンサイズである。付け合せのポテトだけでもLサイズありそうだった。
「結子ちゃん、店長から。元気出せって」
デカンタの赤ワインがサービスされた。
結子は苦笑する。
「なんか、すっかり同情されてるわ」
「みんな知ってるみたいだね。君たちのことは」
「狭い街だから。兵隊と付き合えば目立つしね。いろんな意味で」
結子はよく焼けたステーキにナイフを入れ、口に運んだ。そう言えば焼き方を聞かれなかったな、と思ったがアメリカ人向けならばそれも納得できる。せっかくのサーロインだが、中まで火が通っていた。味は悪くないだけに残念だった。
肉を平らげ、ワインを飲んだ。結子は足りないと、ボトルワインを注文した。
「倉田さん、けっこう強いんだな」
「あの仕事してればね。それよりご馳走になっちゃって、ごめんなさい」
「構わないよ、そのつもりだったし倉田さんには迷惑もかけたし」
夜の公園をゆっくりと歩いた。軍艦には明かりが点滅していた。暗い海に浮かぶ巨大な姿は不気味でさえあった。
迷惑なんて、と言った結子が少しよろけたので、少し冷まそうとベンチに腰掛けた。


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