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アゲハ
【その他 官能小説】

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レイラ-39

―コンコンッ
『どうぞ。』
私はうつ向いたまま、ドアを叩いたノックに答えた。
静かにドアが開いた。

「玲良…。」
私は蓮の声を聞いた様な気がした。
蓮恋しさのあまり、幻聴でも聞いているかの様だった。
しかしそれは幻聴ではなかった。確かに、ドアを開いた人物がそう言ったのだ。
私はゆっくりと顔を上げ、ドアを開いた人物を見る。
「玲良。」
その人はもう一度私を呼んだ。
『う…そ……。』
私が顔を上げると、そこにいたのは間違いなく蓮であった。
今までに一度も見たことのない黒のスーツを着けた蓮は優しい顔で私を見つめている。
「本当はすぐにでも君に正体を打ち明けたいと思っていた。」
蓮は側へと歩み寄るときつく私を抱きしめた。
『一体どういう事なの??』
涙が頬を伝うのを感じた。自分でも抑えがきかない涙が、私を抱きしめる蓮の腕を濡らした。
「俺はINCのアンダーカバーなんだ。騙していてすまない。」
つまり、蓮は本来麻薬犯罪組織の人間ではなく、麻薬組織に捜査のために潜入していた捜査官だったのだ。
息が止まりそうだった。まさか蓮が私と同じ様に司法組織に身を置く人間だとは考えてもみなかったのだから。
「少し俺の正体をほのめかす様な発言もあったと思うが、気付かなかったか?」
私のあまりの驚き様を見た蓮が言った。
『私と一緒で…芝居をしている…?』
「そうさ。芝居を続ける事が俺の仕事だった。」
蓮は優しく私の髪を撫でた。
『だから出世も望まなかった訳…。』
私にはやっと涙の底が見え始めた。
「あぁ、君と一緒で俺は知りたがりだとも言った。」
『どうして気付かなかったのかしら。』
本当にどうして気付かなかったのだろう。蓮の事を知るチャンスはいくらでもあったというのに。
「俺はすぐに君の事がわかったのにな。」
『何故なの?どうして私が麻取だとわかったの?』
蓮は私の顔に唇を寄せ、涙を拭うと答えた。
「君はINCの日本駐在員との連絡係をしていた事があったろう??」
『まさかあなたがINCの日本駐在員だったの?!でも、私は電話連絡しか行っていなかったわ!』
「声だよ。仕事柄、一度聞いた人の声は自然と覚えてしまうんだ。」
私は再び頬を涙が伝うのを感じた。
「君にいくつか隠し事を暴露しようか。」
『たくさんありそうね。』
私は溢れる涙を必死に拭いながら言った。
「まず君を襲ったチェコ人のダークネス密売人を殺した事に始まる数々の刑事訴追の恐れがある行為についてだが、INCが全て緊急避難措置として刑事訴追を免除した。もちろん君の事も。」
『そう……。他には?』
蓮は私の座るベッドに腰を下ろした。
「常務と常務の部下の身柄だが、実はレストランの後すぐにINCが確保していた。常務に飲ませたダークネスも偽物で、本当は只の睡眠薬だった。」
『なるほど、それで組織による常務への報復は行われなかったのね。』
蓮の話には全てつじつまが合った。
「あぁ、殺されてしまっては元も子もない。組織には俺が常務を処分したと報告したんだ。対した情報は握っていなかったが、奴にはきちんと罪を償ってもらおう。」
『当然ね、あなたが5日間姿を見せなかったのはその事後処理の為だったのね。隠し事はまだある?』
私は蓮に笑顔を向けた。まだ涙は拭い切れていなかったが、芝居のない素直な笑顔を。
「君に俺の事も少し知ってもらおうか。」
『知りたいわ、きかせて。』
蓮も私に満面の笑みを見せた。
「疎遠の親父、親父もINCにいるんだ。」
『INCの科学者?!』
「あぁ、親父は俺もINCの科学者にしたかったようだが、俺は潜入捜査官になったんだ。芝居が得意な俺には適任だったね。」


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