投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)
【歴史物 官能小説】

真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)の最初へ 真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし) 48 真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし) 50 真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)の最後へ

拾参-1

 突貫作業の続いた真田丸は、十一月末には何とか完成に至り、その偉容を徳川方に見せつけた。
 半月形の出丸は城壁に無数の幟(のぼり)を立て、それがことごとく赤の無地であったがために、炎(ほむら)で包まれているようであった。真田の家紋は六文銭ではあるが、敵方に兄真田信之の子息が参戦していたため幸村はそれを気遣い、敢えて六文銭の幟は用いなかった。それよりも、かつての武田の赤備えを意識し、幟はおろか指物、甲冑までも赤で統一し、闘志を現していた。

 そんな闘志を徳川方はひしと感じ、戦場に出張ってきていた伊賀者の頭領、高坂八魔多も『これは、合戦の前に、ひと手打たねばなるまいて』と腕組みした。
 そこで、狐狸婆からくノ一の碧玉を借り、敵陣の中に潜り込ませた。

 碧玉は大坂城八丁目口を守る南条元忠という武将に近づいた。夜、密かに寝床へ滑り込み小刀を突きつける。

「お声を立てられますな。私めは徳川の伊賀者を統べる者が寄越した間者。このまま南条殿の首に刃を突き立ててもよいのですが、こちらの話を聞くという気がおありならば、刃を納めましょう。そして、美味しい話を言上いたしましょう」

南条は冷や汗を浮かべ身体を固くしたが、まずは眼前の危難を遠ざけようと「話を聞くゆえ、まずは小刀を仕舞え」と言った。
 碧玉は「この戦はどうあがいても豊臣方に勝ち目はありませぬ。今のうちに内通すれば、五万石ほどは家康公があてがってくれますぞ」と誘った。五万石といえば南条が今、豊臣家からもらっている扶持の百倍であった。彼は迷ったが、碧玉はさらに徳川方の優勢を説き、城門のひとつを内側から開ける手筈を整え、戦の最中にその合図を送ってくれれば、さらに一万石加える旨を申し添えた。
 ついに南条の心はゆらぎ、内応する事を承諾した。碧玉は「よくぞご決断くだされました。まずは手付けとして、この身を献上いたしましょう」と柔らかく抱きついた。
 碧玉の極上の女体を密かに堪能した南条。彼は叛心を秘めたまま真田丸西側の惣構えを守る将として高坂八魔多の手駒となった。
 しかしである。伊賀者が大坂城内に忍び込み、諸将に内通の誘いを掛けることは十分に予見していた幸村であった。そこで、千夜に命じて真田丸およびその周辺の警戒に当たらせていた。
 碧玉の行動も千夜はつかんでいたが、幸村は敢えてすぐには手を下さず、敵に内応者を得たと思い込ませておいて、数日後、南条元忠の件を大野治長ら大坂城の古顔に打ち明けた。南条は密かに処分され、八魔多の一手は、まずは受け流されることになってしまったのだった。


 十二月に入り、大坂城を取り囲む徳川勢は、じわじわと包囲の輪を狭めつつあった。そんな折、大助が幸村の陣所へ姿を現した。彼は出丸着工の頃から大坂城本丸に留め置かれていたが、戦直前になって軍監(戦目付け)の伊木遠雄とともに真田丸へとやってきたのだった。

「伊木どの、大助を連れてきてくれたことは嬉しいが、城の者は黙っていなかったであろう」

出丸が完成すると幸村が寝返ってそこに籠もり徳川方の手引きをするかもしれぬと危惧する者が大坂城にいたため、幸村は息子の大助を人質として預けていたのである。

「なあに幸村どの。戦端が開かれれば前線に勇将が一人でも多くほしいと、戦目付けの権限で御子息を連れて参ったまでのこと」

老いた顔に笑みを浮かべる伊木は、昔は豊臣秀吉の黄母衣衆(親衛隊)として活躍した者だった。

 幸村と伊木が話を続ける中、大助は中座し、陣所から出て真田丸の内部を見て廻った。多くの兵が戦支度に奔走しており、その数はおよそ六千名ということである。徳川勢がひしひしと迫っていることもあり皆、緊張した顔つきだった。大助も戦に臨むのはこれが初めてであり、周りと同じ強張った表情であることは鏡を見なくとも分かった。
 そんな中、見知った顔の娘が向こうから素早く歩いてきた。

「早喜ではないか」

呼ばわると、早喜はふわりと立ち止まり、大助だと分かるや笑顔を見せた。初陣間近の固い心もほぐれるような、素晴らしい笑顔だった。

「大助様。本丸にいらしたはずですが、ここへはどのような御用事で?」

「ああ、つい先ほど真田丸へ移って参った」

「本当ですか。それは嬉しゅうございます。一緒に戦うことが出来ますね」

「ん? 一緒に?」

「ええ、一緒に」

「危ない危ない。おなご衆は惣構えの安全な場所へ退いておれ」

「えぇーっ、私共も戦いますよーー。気の早い飛奈は火縄銃担いで城壁に貼り付いていますし、稀代や伊代も炮烙玉をぶん投げるんだと意気込んでいます」

「そうなのか。でも、おなごだと知れれば……」

「大丈夫ですよ。飛奈は頬当てで顔が分からないし、稀代と伊代は髪を男髷に結って、元々顔がごついから男にしか見えないし……」

可笑しそうに言う早喜へ、大助は少し心配そうに聞いた。

「早喜はどうやって戦うんだ?」

「私や沙笑は黒装束に身を固め城壁の上を駆けながら苦無(くない:棒手裏剣の一種)を打ちます」

「駆けながら苦無を……。あまり無茶するなよ」

「他の皆はさすがに危ないので禄紋に籠もりますが、それでも銃の火縄を木綿でこしらえたり兵に配る握り飯を作ったりしますよ」

「禄紋といえば娼家だそうだな」

「あれ? 大助様はまだいらしたことがありませんでしたか。では、これから参りませんか? 私もちょうど帰るところでしたし」

「……うん。そうだな、ちょっと覗いてみるか」


真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)の最初へ 真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし) 48 真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし) 50 真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前