〈人外の戯れ〉-11
『あ"お"ぅ"ッ!?ゆ…由香様！い、いきなり何でッ!?あ"ん"ッ!!』
「ッ!?」
顎を突き出した由香は、突如として無言のままでオヤジの背中に鞭を打ち付けた。
冷たい視線の下で悶絶するオヤジの表情は、痛みに耐えているというよりは、暴力的に虐げられる被虐の快感に酔いしれているといった方が適切であり、黄ばんだ前歯を剥いたしかめっ面は、唇を歪めて恍惚としていた。
それは恭子が初めて見るマゾヒストの愉悦に浸る姿であり、決して踏み入れるはずのない《世界》が其所には広がっていた。
『馴れ馴れしいのよ……断りも無しに“由香”なんて呼んでさあ……無礼なのよ、この…クソブタ野郎ッ!!』
『い…痛ッ!!……お、お許しください……エヘヘ……』
太った身体特有の、猫背気味の丸みを帯びた背中には、二本のミミズ腫れが痛々しくも並び、僅かにだが血が滲んでいた。
それを見ただけでも、あの由香が握る鞭の威力は知れようというもの。
そして、それを嬉々として受け入れ、幸せそうな笑顔を作れるオヤジの変態ぶりもまた、知れようというものだ。
『ほら“コレ”を見なさい。不潔で友達もいないブタ野郎のオマエに〈仲間〉を紹介してやるわ……フン！今日はコイツと遊ばせてやるから』
「ッ…!!!」
由香は左手で恭子の尻肉を握ると、その巨大な割れ目を鞭で擦りだした……このマゾヒストの醜いオヤジに紹介するという事は、つまり二人は同列の価値しかないと吐きつけたに等しい……しかも、このステージ上で、二人で“戯れろ”との命令までもつけて……。
『そ、そんな…!?き…今日は由香様…じ、女王様と遊んでもらえると思って……ん"お"ぅ"ッ!!あ"ッ…ぐぶ!!』
『はあぁぁッ？オマエみたいなクソブタの為に、わざわざ私が捜してあげたってのにさあッ!!オマエなんか“コレ”で充分なんだよ、クソ喰い家畜がぁ!!』
「ひぃッ!!…いッ!!…ひ…いッ!!」
ビュンッと鞭が唸ると、ビシッと肉が打ち付けられる音が走り、そしてオヤジの何とも形容し難い悲鳴が部屋中に響き渡った。
やがて音が止み、恭子が恐る恐る後ろに視線を送ると、俯せになっているオヤジの背中に、×の字にミミズ腫れが刻まれていた。
『なに背中丸めて縮こまってんのよぉ……オマエは便所虫かぁ？私のお仕置きが理解出来たら、『ありがたく頂戴致します、女王様』って詫びなさいよぉ……』
由香は、非情にも×字に交わるミミズ腫れの中心にヒールを突き立て、オヤジの頬を鞭で軽く叩いた。
オヤジの苦悶に満ちた呻きは絶頂の溜め息にも似て、女王様からの命令に健気にも従おうと、踏み潰されながら土下座をして床に突っ伏した。
『ふひッ…ひぃ……あ…ありがたく頂戴致します、女王様ぁ……』
オヤジは涙ながらに由香に詫びたが、その涙が歓喜からくるものなのは言うまでもない……素直に従うオヤジに由香は表情を弛ませると、背中を丸めてそっとオヤジの頭部を両手で覆い、再び仁王立ちになって自らの股間に引き寄せた……。