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真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)
【歴史物 官能小説】

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「あ……、やべ……。鎌之助兄(にい)だ」

由莉の兄、由利鎌之助は、妹の警護を兼ねて京へやってきていたが、主君、幸村の密命も帯びていた。それは、「四国の覇者であった長宗我部元親。その四男、盛親が京で浪々の身の上と聞く。その近況を調べてまいれ」というものだった。

「由莉! 小娘のくせに大人の男に向かって無礼な言葉を吐くとは何事だ!」

「あたい、もう十八だ。小娘なんかじゃない」

「小娘うんぬんが問題ではない。無礼な口利きが悪いと言っておるのだ!」

「だってこの大男が……」

「うるさい!」

ついに拳骨が由莉の頭に見舞われた。

「あーーー、ひどいーーー」

 どうやら兄妹らしい二人の遣り取りを見ていた盛親は、教え子の少女に「もう帰りなさい」と告げ、兄妹喧嘩を仲裁するはめになった自分に苦笑しながら「まあまあ」と二人の間に割って入った。


 寺子屋に案内された鎌之助は、あらためて妹の非礼を詫び、自分を名乗った。そして、盛親の答礼を耳にして軽く目を見張った。

「貴殿が、かの長宗我部盛親どのでございましたか。……これはこれは、由莉めの行い、瓢簞から駒……」

「え?」

「いや失礼。じつは拙者の主君が盛親どのを存じ上げておりまして……」

鎌之助は両手を床につかえたまま、幸村の事を語り、自分の京での役目を述べた。

「さようでござったか。そこもとは真田左衛門佐どのの家来。しかし、真田家は昌幸どのが頭領のはず。息災でござるか?」

「あいにくと、大殿は二年前に身罷(みまか)ってございます」

「……そうであったか。策略奇計の才は四海に聞こえ、徳川勢を二度も打ち負かしたと褒めそやされし昌幸どのがのう……」

『その才は幸村が引き継いでいる』と鎌之助は喉まで出かかったが、言葉を飲み込んだ。しかし、由莉が言ってしまった。

「佐の殿が立派に跡を継いでいますから大丈夫ですよ」

兄に睨まれる妹に、盛親は興味深そうに聞いた。

「ほう……左衛門佐どのは、そこまでの軍略家でござるか」

「よく知らないけど、古い書はよく読んでいますよ。一度あたいが、それなあに? と聞いたら、祖父幸隆の書き残したものだって言っていました」

「ほう……真田幸隆どのの」

「佐の殿は書を読むばかりの青びょうたんじゃないですよ。昔は槍の稽古をつけてもらいました。めっぽう強いです」

「これ、由莉、おまえは黙ってろ!」

釘を刺され、由莉はふくれっ面になったが、鎌之助はそんな妹に構わず、盛親と言葉を交わし続けた。

 半時後、鎌之助は長宗我部家の改易の顛末を理解し、盛親は真田父子の蟄居の詳細を知り得た。そして、幸村、盛親両者に共通するものを互いに確認した。それは、「風雲に乗じて再起を図る」ということだった。
 その、世が大きく動こうとする気運は、目には見えずとも、間近で、音もなくうねっているのであった。


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