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【スポーツ 官能小説】

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〜 日曜日・結末 〜-1

〜 29番の日曜日 ・ 結末 〜




 背負ったものが重すぎた場合、解放されても身体が重さを覚えている。 圧し潰されるイメージを一度具現化してしまったら、身体中が軋みっぱなしだ。

 心も体とおんなじだ。 急に『もう大丈夫』『よく頑張った』と言われても、一度引き裂かれた傷は元に戻るなんて有り得ない。 

 私は泣きじゃくっていた。 今日の出来事がもつ意味を正確に理解しているかといえば、多分何にも分からない。 分かることはたった3つ。 自分の命が助かったこと、先輩の命が助かったこと、そして私のせいで先輩が命をかけたこと。 

 実は『ただの木箱』だった台の上で。 私は人目を憚らずに泣き続けた。


 ……。


 今から15分前。 先輩は絶望と恐怖で動けない私を抱え、首吊り台の上へと引き上げた。 何かの間違いであって欲しい、そう目で訴えてみたところで、返ってくるのは諦念を促す穏やかな視線だ。 それで、私は『本当にこれから首を吊って死ななければいけない』ことを理解してしまった。 

 別に手足を拘束されているわけでもなく、身につけているのは首輪1つ。 大声で叫んで、暴れて、喚いて、逃げだすことは十分に可能だ。 それでも私が黙って先輩に従ったのは、学園で生きる辛さのせいかもしれないし、逃げればもっと酷い最期になるからかもしれない。 きっと未来の無い現実に、心が擦り切れてしまったといえば、それらしく聞こえるんだろう。

 どれが本当なのか、私自身も分からない。 ただ1ついえるのは、台に引き上げられた時、私は考えるのを止めていた。 湧きあがる感情を遠くから眺めつつ、ただ先輩の言葉に従うだけの、空っぽの人形になっていた。

 促されるまま、天井から伸びたロープに首を通す。 台の中央には板の割れ目があり、ちょうど割れ目の上に立つ。 先輩が古びたリモコンを持ってくる。 リモコンには赤いボタンが1つだけついていて、どうやらコレが台の板を開閉する仕組みらしい。 つまり、リモコンを押せば足許の台が開き、私は下に落下する。 全体重が首に掛かり、頚椎骨折ないし窒息で、幸薄い一生に幕が降りる。 

『ボタンを押しなさい』

 それまでは促されるまま動いていた私だったが、リモコンを握りしめて動けない。 別に逆らうつもりはないし、もう自分の運命を知ってしまった。 でも、決定的な1歩は踏み出せなかった。

『後始末は私がするから』

 耳元で先輩がそっと呟く。 後始末……そういえば聞いたことが有る。 行為直後に腸の内容物は全て漏れ、うっ血した内臓は破れ、様々なもので床が汚れてしまうらしい。 その始末は、先輩がしてくれるということだろう。 

 一呼吸置いてから、

『心配しないで』

 心なしか強い口調が耳に届いた。 誰が心配なんてするものか。 先輩が床を掃除しているとき、私は遠くに旅立っている。 ああもう知らない、どうでもいい。 さよならみんな、さよなら私。 もっと生きたかったけれど、いつか幸せになりたかったけれど、これ以上不幸にならないのなら、私は笑顔でなれる気がする。

 そして私はリモコンについた真っ赤なスイッチを一息に押した。 自分の命を奪う装置を、他でもない、自分の手で作動させた。 その結果、パカッと床が開き、真っ暗な闇に呑み込まれ――……





 ……――結局なにも起きなかった。
 床が開くことはなかったし、私が落下することもなかった。

 すべては茶番だったのだ。 正確にどこからどこまでが茶番なのか、そんなことは分からない。

 台がただの木箱に過ぎず、割れ目もただの木目に過ぎない。 これ以上絶望する必要はない。そんなことが分かるまで、私は台にへたり込み、ポカンと宙をみあげていた。






 私に対する試験とは、芸でも指示でも、何でもなかった。 問われていたのは『自決するよう指示されて、その指示に従うことができるか否か』だった。

 葛藤も絶望も諦観を踏まえたうえで、指示には服従しなければいけない。 口で言うのは簡単だしか頭で理解することはできる。 ならば、身体で実行できるかというと、そう単純には進まない。 だからこそこんな場が設けられ、私の覚悟は抉りだされたというわけだ。

 生きている、という嬉しさはない。 
 騙された、という怒りもない。
 張りつめた精神を緩めない限り、人並みの感情は湧いてこない。 緩めようとしたところで、あまりにも極限までピンと張られたメンタルは、意識して緩急をつけられる域を超えていた。


 台の上で私が赤いスイッチを押してから5分後。
 呆然となる私の傍で、寮監が先輩に宣告した。 

『貴方をモニターしていましたけど、後輩に対して、必要以上に声掛けをしていましたね〜』

 どうやら先輩が独り言を装って私に語ったこと自体が、寮監の意に反したらしい。 いわんや自決直前に耳元で囁くこと、をや。 あの一言に背中を押されるように、私はスイッチを押した。 『心配しないで』の一言で、一気に全てがどうでもよくなり、空っぽっぽになることができた。

 責任を問う寮監。 先輩は腹ばいになって足を180度まで開き、これ以上ないくらい姿勢を低くした土下座をしたうえで、なんでもします、と応じる。 

 寮監が下した指示は『ロシアン・ルーレット』だった。 命をかける覚悟を問う場面で干渉した以上、自分も命を扱うべきという理屈だった。 おもむろに棚から拳銃を取り出し、弾を5発込めてからレボルバーを勢いよく回す。 B29先輩は拳銃を受け取ると、これっぽっちも表情を変えず、口を開いて銃口を咥えた。 レボルバーは6連式だった。 そこに5発の弾を込めたということは、『空』の銃倉はたったの1つだ。 このまま引き金を引けば、6分の5の確率で命を落とす。  



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