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【スポーツ 官能小説】

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〜 日曜日・放置 〜-2

『簡易トイレになって、私が戻ってくるまで【受け入れ体勢】で待ちなさい』

 急に静かになった砂場。
 先輩の指示が脳裏に木霊する。 こうやって舌を伸ばしているのは、いつでも誰でも小水をかけて構わないというアピールだ。 横着して舌をしまうことがないよう、丁寧に石までのせられてしまった。 もし落しでもしたらどうなるだろう。 砂に埋められていて手は使えないし、首だって動かせない現状では、砂地に落ちた石を咥えられそうにない。 先輩が戻ってきて、指示に従えなかった私を見つけたらどうなるか――考えただけで全身が震える。 一旦石を咥えて、先輩が戻ってきた時に口の中から舌に戻すことができれば、とも考えた。 けれどもダメだ。 よっぽど上手に石を咥えられれば別だが、少しでも舌を動かすと落してしまいそうで、咥えようとは思えない。

 砂場で催した人の排泄物を、砂の上ではなく、砂の中に移す。 私の口を排水管に見立てられてしまった。 他人の排泄物を口に出してもらい、消化管を通し、砂の中に排泄しろという。  
 誰かが私の傍にやってきて、埋まっている私の様子を察し、私の口に排泄する。 それをジッと、砂に埋まってひたすら待つ。 懸命に舌を伸ばしているのも、冷たい砂に押しつぶされて、荒い鼻息を繰り返しているのも、すべて排泄してもらうため。 いつ帰ってくるかも分からない先輩が戻るまで、ずっとこうしていなくちゃいけない。 

 先輩の指示を理解したとき、頭の中がグチャグチャになった。
 それでもこうして、どうにか意識を保ちながら、砂場の中に埋まっている。 

「……」

 指示を受けた私は、きっと泣きそうな顔をしていたんだろう。 指示を終えた先輩は確かに言った。 それまでの冷淡な調子ではなく、

『そんな顔じゃいけない。 いっそ笑顔でやってみなさい』

 真正面から私を見つめてくれた。

『私の指示に従えないなら、貴方は次のステップに進めない。 逆にいうと、私に従っていれば次のステージに進むことができる。 あのね、笑顔っていうのは楽しい時につくるものって思うでしょう。 私はそうは思ってないの』

 入学初日、夜。 私を熱く抱きしめてくれた、あの眼差しで呟いてくれた。 

『笑顔はね、辛い時のためにあるんだよ』

 瞳の奥に吸い込まれそうな、先輩の黒い瞳だった。 

「……」

 辛いし、惨めだし、哀しいけれど、今の私は先輩の指示に従っている。 どこまでできるか分からないけれど、先輩に言われたことを、精一杯やろうと思う。 そこに意味なんてなかったとしても、先輩が真剣に命令してくれたんだから、従うには十分な理由だ。 既に最底辺まで堕ちた私なんて、これ以上穢されたところで構うものか。

 先輩は冷たいのか怖いのか、それともちょっぴり暖かいのか、正直言って私には解らない。 でも、少なくとも先輩は今の私が味わっている感情を過去に味わってきたはずだ。 その人の言葉についていかずして、誰についていくんだとも思う。

 できれば先輩が優しい人であって欲しい。 初日に感じた先輩の温もりは、錯覚なんかじゃないと思いたい。 私は先輩を好きになりたい。 誰かの拠り所になりたいし、大切な人が出来たら嬉しい。 辛いことしかない学園でも、一かけらの温もりがあれば、3年間過ごせるかもしれない。

 先輩に、私のことを好きになって欲しい。 不条理でもいいし、苦しくてもいい。 私のことをちょっとでも好きな人の命令であれば、もっとずっと頑張れる。 

「……」

 現実の私は、臭気が足許から昇ってくる砂場に埋まりっ舌を出しつづけているだけ。 この行為がどこをどう繋がれば『先輩と関係を築く』ことになるか、上手く説明は出来やしない。 それでも先輩に『笑顔が大切』といわれたとき、私は何故かハッとした。 『真剣に砂に埋まり続けること』で私の漠然とした希望に近づけるような、そんな気がした。 
 
「……」

 だからこうやって、涙もこぼさず、舌をだした不恰好な笑顔ではあるけれど、どうにか引きつった笑顔で埋もれている。 改めて思う。 どのくらい長い時間こうしていればいいか分からないけれど、ギリギリまで笑っていよう。 先輩の言葉通りにやってみよう――。




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