投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 98 プラネタリウム 100 プラネタリウムの最後へ

L-7

「カウントはねー、難しいんだ」
MCの途中。
汗まみれで短い前髪を拭って笑いながらお客さんを見る。
ビックリするほど満員で本当に嬉しい。
「大介がいつもやってくれんだけど…あ、大介ってあそこの彼ね?ホームレスみたいな」
どかっと笑いが起こる。

大介は「髪伸ばす!」と宣言してから本当に髪を切らずに伸ばし続けて、今じゃ結べるほどだ。

「大介はすごいんだー。これ!ってなったら突っ走っちゃうの」
後ろから「お前に言われたくねーやい!」と言われ、またみんなが笑う。
「……そんな曲をやります。どうしても捨てきれない思いとか、未来を思う気持ちとか、怖くてたまらない何かとか」
そう陽向が話し始めると決まって洋平が笑顔でアルペジオを弾き始める。
分かってるんだ。
これから始まるんだってこと。
そのアルペジオを背に話してる時がすごく幸せなの。
何かに守られているような気がするんだ。
一人じゃないよ、って言われてる気がするの。
みんなが大好き。
この上ないくらいに。
「今日は本当にありがとうございます!みんなのその顔忘れられないよ。北海道最高だぜー!」
キャッチーな煽りが始まり、まずはメンバーでノる。
8フレーズ過ぎたところでお客さんにも煽りを入れる。
北海道も大分ノリがいい。
「Say grooving!!!」
そう言うとみんな「grooving!!!」と返してくれる。
こんなにマイナーなバンドなのに…。
「一緒に踊ろー!あ……タメ語はアレですね。踊りましょう」
陽向が言い直すとまた笑いが起こった。
デタラメな歌詞を歌った後、リズムに合わせてカウントを取る。
かなり行き当たりばったりだった。
みんなを信じていたから。
出来ると思ったから。
あのカウントで、真っさらな状態で入れると思ったから……。
「Yehaaaaay!『It's』!!!」

「お疲れお疲れー!」
バッグヤードに入った途端に缶を渡される。
「え?」
ビールの缶を渡してくれたのは佐藤だった。
「え、佐藤さん!どーして?!」
陽向は化粧が落ちかけた顔で見慣れた人物を見た。
「バカバカ。NINE BOXはまさかの北海道発祥だから、そこでライブできるってすげーし、結構広いしさぁー。あ、俺はちっと調査的な?」
佐藤もビールを飲んでいる。
「やっぱお前ら最高。客もすげーノってたじゃん。持ってるね」
力こぶを思い切り叩いて佐藤は笑った。
「遠くまで見えましたか?ここ、長細かったし」
「おう。ブレゼントしたお立ち台、活躍してたよ」
佐藤は満面の笑みで陽向に拳を突き出した。
遠慮なくそれに重ねる。
「あと5個?」
「ハイ」
「仕事はへーきなの?」
「まー…あたしはなんとか」
「そっか。よかった。結構無理なお願いしたかなって思って仕事とか体調とか心配なんだよね。大丈夫なら良かったよ」
「折り返しも頑張ります。あ、頑張りますってか……楽しみます」
「その意気だよ」
佐藤は陽向の肩をポンポンと叩いて去って行った。

近くの激安ホテルに宿泊し、翌朝の早めの飛行機で東京へと戻る。
陽向は起きた時から大分体調が優れなかった。
熱っぽいような、ただ怠いだけなような…。
帰るだけなので化粧もせずにすっぴんで出歩いた。
風邪かも…とも思っていたので一応マスクもした。
「陽向。ちょーだるそうだけど大丈夫?」
「ん…大丈夫」
大介の言葉に、ぼーっとしながら答える。
帰りの飛行機はずっと寝ていた。
大介の肩を枕代わりにして。
目を覚ました時は恐ろしいほどめまいがして、ヒーヒー言いながら飛行機から降りた。
この前北海道行った時と同じだ。
北海道とはソリが合わないのか……。
そんなくだらない事を考えていると、大介が「電車で帰れる?」と心配そうに聞いてきた。
「あ…へーき。ちょっと休んだら大丈夫だから。みんな、先帰ってて。ごめんね…」
陽向はそのまま近くのソファーに座ってトランクを台にして突っ伏した。
あぁ…なんだろ。
発作じゃなさそうなんだけどな…。
「おい」
「へ?」
大介に頭を掴まれ、そのまま額に生暖かい掌を押し付けられる。
陽向はそのまま目を閉じた。
「熱あんじゃねーかよ。なんで言わねーんだよ」
「え、うそ…」
本気で気付かなかった。
ただ、疲れてるのだとばかり思っていた。
こーゆートコがバカなんだよなぁ、自分。


プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 98 プラネタリウム 100 プラネタリウムの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前