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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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螺旋-9

 ヒロキくんはくるくる表情を変えながらバンドのことや歌詞のことを色々おしえてくれた。
 『螺旋』のCDジャケットについても触れ、あの絵はある女性画家の作品であることを知った。

 ショップの制服を着ていない私服のヒロキくんは、洗いざらしのアイボリーのシャツにボルドーのシンプルだけれども上質そうなカーディガン、そしてブラックのチノパンを合わせていて、当たり障りのないコーディネートなのにより一層人目をひく華やかさをそなえていた。

 コートはキャメル色のショートダッフル。
 グレンチェックのマフラーは手触りが良さそうだった。

 いぶし銀の、クラウンのまわりにスタッズがデザインされた小ぶりのピアスが左耳にふたつ、行儀よく並んでいた。

 わたしは、ヒロキくんが最近流行りのニット帽子の先端をわざと余らせて立たせて被るような男の子じゃなくてよかったと思った。
 先が尖った気障な靴を履いていないこともとても好ましかった。

 彼はとても丁寧に珈琲を飲む。
 ひとくちめ、ふたくちめはブラックのまま。
 その次はミルクを入れて、静かにスプーンで掻き混ぜてから。
 シュガーは入れない。入れるのはミルクだけ。
 余計な音はたてず、ゆっくりと楽しむように珈琲を飲んでいる。
 右手の人差し指の爪の根元に小さなほくろがあった。

「ねえ、沙保さん」
「ん?」
「沙保さんがつけてるピアスって、どこで買ったんです?」

 すごく綺麗だなぁと思って、とヒロキくんがわたしのハーフアップにしたセミロングの髪から覗く耳元を見ながら言った。

「これね、卒業旅行で友達と行ったチェコで買ったピアスなの。シンプルだけどとっても綺麗だったから一目惚れして買ったの」

 チェコガラスのガラスカボションをスタッドピアスにしたマットクリスタルのピアス。
 マットだけど光の加減で青にも赤にも輝いて見える上品な色合いがとても気に入っている。

 チェコには独特なカットの綺麗なガラスビーズやガラスボタンがたくさんあって、そのすべてが品が良く、押し付けがましくない輝きを放っていて、見ているだけでも幸せな気持ちになった。
 わたしたちはたくさんのアクセサリーや香水瓶、爪磨きをお土産に買って帰った。

「そうだったんですね。ほんとうに綺麗で、よく似合ってる。そういう色のピアスって初めて見た」
「ありがとう。すごく嬉しい。ヒロキくんのピアスも素敵」

 わたしがそう言うと、彼はほんとうに嬉しそうに微笑んだ。

「僕も一目惚れして買ったんです。そうだ、沙保さん。もし沙保さんがよければなんですけど……」
「なあに?」
「ピアスを片方ずつ交換しませんか? 沙保さんも右耳はふたつピアスホールがあるみたいだし、沙保さんは右に僕は左に同じように付けたいなって思って」

 突然の提案に、わたしはびっくりしながらも高校や短大に通っていた頃に友達とよくおそろいのアクセサリーやポーチを購入して、はしゃいでいたことを思い出した。

 友達とおそろいのものはすべてそれだけで特別に思えた。
 友達と自分を繋ぐ、目に見える鎖のような。
“おそろい”──少し懐かしくてくすぐったい響き。


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