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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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螺旋-1

 わたしは耳かきが好きだ。
 それも、尋常じゃないくらいに。

 どれくらい尋常じゃないかというと、耳の中のガサガサいう音が気になって耳かきをしなくては気が済まなくなり、挙げ句の果てには夜もまともに眠れなくなってしまったくらいに。

 耳かきで突き続けた耳の中は血が出ることもある。
 もうやめなくちゃ、そろそろ終わりにしよう、そう思うのになかなか手を止めることができない。

 夜中遅くまで耳かきをして、それでもガサガサ音が気になってしまうことが多い。
 横になると余計に音が大きくなる気さえする。

 眠れない日が続くと当然仕事にも支障をきたしてしまう。
 わたしの仕事は一日中パソコンに向かって行うものなので、一度睡魔に襲われるとやっかいだ。
 キー入力を誤ったり、馬鹿馬鹿しいミスを連発してしまったり……。

 とにかく、夜にしっかり眠れないと困るため、勇気を出して病院へ行ってきたところ。
 睡眠薬をもらってきた。

 人生初の睡眠薬。
 白くて丸くて小さな錠剤。朝に残りにくい超短期作用型の、マイスリーという薬。
 これで耳が気になって眠れないということがなくなればいいんだけど──。

 仕事帰りに病院に寄ったので、辺りはもう真っ暗だ。
 駅前のCDショップが煌々と光っている。
 そのあたたかそうな光に、わたしは吸い寄せられるように近づいていった。

 二月。
 冷たい風が頬に突き刺さるような夜だった。

 どこから流れてきたのか足元で枯れ葉がカサカサと鳴り、コートの隙間から冷気が入り込む。
 ストラップのついたプラットフォームパンプスがこつこつと響いた。

 自動ドアに近づいた途端、賑やかな店内が広がった。
 音の波がわたしを包む。
 このドアの中と外ではまるで違う世界が存在しているかのようだった。

 最近発売されたばかりのCDたちが並ぶ棚を眺めていると、急にそのCDの色が目に飛び込んできた。
 いろいろな種類の青に白。
 爽やかさのある青ではない。
 どちらかというと、陰鬱な重々しい種類の青色だ。

 群青色とか藍色に重なった、海のように深い青や雨に濡れそぼった紫陽花のような紫がかったくすんだ青。

 その上に、真っ白ではない白色の──たとえば葫蘆の鍋のような──模様たちがまるで次々と川を流れていくように描かれている。

 CDの上方斜めからレースがかけられているように描かれていて、それから蝶々や魚、今にも折れてしまいそうなか細い手、無数の気泡・繋がるように続いていく。

 わたしは暫くその場を離れることができなかった。
 食い入るようにその絵を見つめた。

 一枚のCDジャケットをこんなにもじっくりと見たのは初めてではないかというくらいに、ただただ見つめていた。

 突然、上着のポケットに入れたスマートフォンが鈍い音をたてた。
 そのバイブ音にわたしは我に返った。
 慌ててスマートフォンを取り出し、内容を確認する。
 ──榊さんからのメールだった。

 榊さんはわたしが属するネットショップ事業部の部長だ。
 三十代後半、妻子持ち。
 確か、三つになる娘さんがひとりだって言っていたっけ。
 いつも髪をオールバックにしていて、イギリス製のスーツを着こなしている。
(同期のお弁当仲間の水谷さん曰く、イタリア製のスーツはチャラチャラした感じがするけれど、イギリス製のスーツは紳士的で素敵──だそう)

「病院、どうだった?」


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