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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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螺旋-12

「酷い男だったんですね。僕は沙保さんのみかただからね!」
「うん、ありがとう。でもね、違うの。睡眠薬なんだけど、元カレのせいじゃないの」
「へっ?」

 わたしはヒロキくんの優しさに心を打たれつつ、自分が睡眠薬を飲んでいるほんとうの理由の間抜けさに恥ずかしくなって目を伏せたまま、この薬は元カレは全然関係ないのと言った。

「恥ずかしいくらいくだらない理由なんだけどね、わたし耳かき依存みたいな感じで。耳かきばっかりしてて眠れなくなっちゃったの」
「みっ耳かき??」

 ヒロキくんが素っ頓狂な声をあげる。
 わたしはそうなの、耳かきなのと小さな声で言った。 

「でも。でも、眠れなくなっちゃうくらいのことですから、やっぱり心が不安定な状態なのかも。ほんと、力になれることがあったら何でもやるんで言ってね」
「ありがとう……。優しいね、ヒロキくん」

 心から言った。くだらないと笑われてもしかたのない理由に、こんなに真剣にこたえてくれるなんて。
 ヒロキくんはゆっくりと首を横に振ると、沙保さんだからですよと目を細めて言った。
 沙保さんだから、に力がこもっていた。

 見つめあった時間はきっとほんの数秒間。
 ヒロキくんがわたしの耳に触れた。

「耳かきしすぎるとよくないんだよね、確か」
「う、うん……」
「じゃあ、耳かきをするひまもないくらい僕が沙保さんに連絡とったり遊びに来たりするね」

 にっこり。屈託のない笑顔で天使が言った。
 彼の指先がわたしの耳をくすぐる。
 顔が赤くなるのが自分でもわかった。

 それから珈琲のおかわりをしながら二時間ほどしゃべって、天使は爽やかな笑顔をフルフェイス越しに見せながら帰っていった。

 バイクに詳しくないわたしでも、格好良いと感じるようなシャープなバイクだった。
 借りたCDは、ヒロキくんが好きだと言っていたブランドのショップ袋に入っていた。


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