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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-20

「ふたみちゃ〜ん! ごめんね〜! ちょっと遅くなった!」
 その声は、間違いなく勇太郎のものだ。追い討ちをかけるようなこの状況に、ふたみの混乱は頂点を越え、気が遠くなってしまった。
 取りあえず、濡れたショーツを替え、シーツも外した。そして、替えの下着を持つと、洗い場へ行き、汚れ物を洗濯機へ押し込む。そこにあるタオルで汚れた股間を拭い、それも洗濯機へ入れて、スイッチを入れた。
「ご、ごめんねお兄ちゃん。いらっしゃい」
 下着を履き替えて、すぐに玄関へ赴き、鍵をあけて勇太郎を迎えた。
「まいったよ、期末の結果が良くなくて」
 呼び出された理由を言いながら、靴を脱ぐ勇太郎。ふたみは、空返事もそこそこに、勇太郎を居間へ通して、自分は部屋に戻った。本当は、勇太郎も自分の部屋へ呼びたかったのだが。
(これ……どうしよう)
 なんとかしないと……。真ん丸い月が浮かぶその敷布団は、相変わらず微かな芳香を漂わせている。
 仕方なく、居間で時間を過ごそうと、ふたみは階下へ降りた。
 居間では、勇太郎がノートを広げ、なにやらシャーペンを走らせていた。
「お兄ちゃん、お勉強?」
「うん。宿題がでてね。本当は、ふたみちゃんと遊びたかったんだけど……提出が、明後日なんだ」
 勇太郎はため息をつく。
「結構、量があってね。でも、補修は嫌だしね……」
「じゃ、ふたみもお勉強する」  
「ごめんね、ふたみちゃん」
「いいよ」
 期せずして、勉強会になったのである。
 静かな空間に、かりかりとシャーペンの音が響く。必死の形相で宿題と相対する勇太郎と違い、ふたみは余裕があった。いつもやる予習と復習は、あっという間に終わってしまい、今は勇太郎の一挙手一投足を眺めている。
 ふと、あの小説『ひとつ屋根の羞恥』を思い出した。
 あの従兄妹の姿に、自分を重ねてみる。
(お兄ちゃん……)
 ふたみは、そっと呼んでみた。物心ついてから今までの生活の中で、存在のなかった男性の家族。それが、例え、昨日今日の縁とはいえ、確かに勇太郎はふたみにとって<兄>と呼べる存在になっていた。
「ぐあぁ〜!」
 ふいに、勇太郎が背を伸ばしながら叫ぶ。何処かを漂っていたふたみの意識が、その声と仕草で現実の中へ引き戻された。
「お兄ちゃん、お茶、入れてあげる」
 時計を見れば、勉強を始めてから小一時間になろうとしている。休憩も必要だろう。
「ああ、ありがとう」
 勇太郎は、そんなふたみの気遣いに甘えることにした。
 快活なひとみと違い、ふたみはのんびりしている。しかし、その心遣いは細やかで、穏やかな雰囲気は、やはり男子生徒の人気が高い。場に流さる性格と思われがちだが、意外に芯はしっかりしていて、例えば、言い寄ってきた男子たちを、やんわりきっちりと拒絶している点は、なるほど、ひとみと姉妹である。
 ふたみは、ひとみ以上に男子に対しては人見知りをする。
 それが、なぜ、勇太郎にはこんなに穏やかな気持ちでいられるのか。自分でも不思議だと思う。
 2ヶ月前に、隣に越してきた勇太郎。いつの間にか、家族同然な存在になって、いつの間にか、彼を、<お兄ちゃん>と呼んでいるのだから。
「お兄ちゃん」
 ふたみは、お茶をテーブルの上に置いた。
「ふたみちゃんは、さ……」
 紅茶に角砂糖を2つ入れ、スプーンを回しながら勇太郎が、話を振る。
「成績いいんだよね」
「え……そうかな」
「ひとみから聞いたよ」
「………」
 勇太郎の口から姉の名前が出ると、どうしても胸が疼いてしまう。しかも、勇太郎が親しげに“ひとみ”と呼びつけたそのことが、一層の痛みを生み出した。


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