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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 2.-14

 信也は明彦の方を見た。明彦はまっすぐ有紗を見つめている。
「しかし、そう言っても、森くんは残った。……真剣だ、ってね。決して有紗を辛い目に合わせない、と誓ってくれた。……、……有紗」
「……、……はい」
「これからは森くんに会うからって嘘をつく必要はない」
「……はい」
「よかったわねぇ、有紗ちゃん……」
 洋子が涙ぐんでいる。明彦が頷いた。何だこれは。有紗は目を細め、瞳に満身の怨恨を集中させた。薄暗がりの先の叔父の黒目は霞んで見えなかったが、洋子にも明彦にも気づかれぬドス黒い焔を燃やしているのだろう。
「……さて」
 信也が息をついて店員を呼び戻した。ワイングラスが置かれ、底を捧げ持ったボトルからワインが高く注がれていく。グラスの中に小さな泡を立ててワインが満ちていく様子を見ながら、有紗はブラウスの中の刻印が肌に灼け焦げていくような痛みを感じた。
「ホールセールスのエースが、有紗が俺の娘と知らなかったとはなぁ。顧客企業は裏の裏まで知ってるクセに。こんな凡ミスするなんて、森くんらしくないんじゃないか?」
 可笑しげに言う信也に、面目ありません、と明彦が照れている。そんなの敢えて言う方が失礼よねぇ、と洋子がコロコロと笑った。有紗を置いて会話が弾む。
「――にしても愛美抜きでこんなとこで食事したら、拗ねられちまうなぁ」
 前菜が前に置かれる。今日の食事もきっと味がしない。




 後ろから明彦の手が肩に触れて、指先でなぞられる。衣服越しではない、裸肩に直接触れられるのは初めてだ。指が滑らかな肩の丸みをなぞるごとに俯いた有紗の髪がふわりと揺れた。
「……緊張しすぎじゃないかな?」
 耳元で少し笑われた。有紗は、湿った息を漏らして、
「別に、してません」
 と小さな声で言った。だが明彦のもう一方の手が前から膝頭へ触れられると、バスタオルから美しく伸びる脚を擦り合わせずにはいられなくて、あまりにも脚の付け根に近い裾が乱れそうになって両手で隠した。
「……今、なに考えてんの?」
「一人暮らしなのにバスタオルが何枚もあるのは、なんでかな、って考えてます」
 髪にキスをされ、明彦の指がピッタリと綴じ合わせたももの狭間を遡ってくる。あっ、と霞れた息を漏らして、最後まで侵入してこようとしたのを、裾を抑えていた手で防いだ。
「ヤキモチだ?」
「違いますよ」
「じゃ、何でそんなこと気にしてんの?」
 有紗の手に阻まれてあっさりと諦めたが、今度はその手が胸元の結び目に伸びてきて、慌てて有紗はそちらも阻んだ。
「また、焦らしてる?」
「……ちょっと、明るくないですか?」
「こっち向いて顔見せてくれたら消すよ」
「……」
 タオルの結び目にも拘らず、最終的に明彦の指は俯いた有紗のうなじを昇って頬をなぞってきた。擽るような指遣いに、垂れた髪がさっきより大きく揺れる。指に力が込められてくる。顔が上げられていって、目に入る照明に照らされて眩しい視界の中に明彦の顔があった。
 優しい顔だ。根から優しい男だ。今からこの男に抱かれる――。
 有紗はバスタオルが辛うじて隠している脚の間に、麗しい愛しみとも、淫らな期待とも異なる、熱い扇情が巻き起こっているのを、まだ脚を擦り合わせて隠していた。




 残業になったから先に夕食を済ませておいてほしい旨のメールを送っていたはずだが、少し遅くに家に帰るとまだ四人分の夕食が並べられているところだった。
「パパも遅かったのよ。愛美ちゃんも、もうちょっとで帰ってくるって。せっかくだから、みんなで食べましょう」
 下拵えをしていた料理に火を通しながら、オープンキッチンから洋子が顔を出した。わかった、と言って有紗はリビングでテレビを見ている叔父には全く目を合わせず、階段を昇って自分の部屋に入った。時計を見ると夜の九時を過ぎている。朝出かける時、洋子に向かって今日の英会話は八時までだと言っていた。八重洲から帰ってくるのに一時間以上かかるだろうか?
 ミッドタウンで叔父たちと遭遇したせいで澱みは嵩を増した。体を重くするような沈鬱が常に有紗を苛んで、何気ない会話の中で思わず妹に近況を問うてしまった。何とかうまくやっていけそう。心配かけてごめんなさい。私、直くんに嫌われないように頑張るね。――うまくいったということは、そういうことだ。何をどう頑張るのか分からないが、直樹は妹を受け入れているということだ。今日は二人が知り合った英会話教室なのだから、帰りに二人の時間を過ごしているのだろう。
 溜息が出た。出さないように努めていても、こうして考えた時には嫌でも漏れる。
 鬱屈を振り払ってスカートから引き出したカットソーを首まで上げて抜こうとしたとき、突然ドアが開いて短い悲鳴を上げた。振り返ると叔父が立っていた。有紗と二人になると豹変する、あの目をしている。
「……勝手に入ってこないで」
 その視線に自然に後ずさったが、すぐに足が壁に当たって阻まれた。信也は後ろ手で静かにドアを閉めると、
「今日は森と会ってこなかったのか? お父さんに嘘をついて」


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