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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 2.-13

 腕時計を見た明彦が微笑ましかった。手の中に握る感触はあの手とは違う。愛美はもう大丈夫だと言った。こっちの手を握り続けていれば、きっと忘れることができる。叔父のためではない。妹のためだ。
「どうですか、今日の私は? その、……なんでしたっけ、何とか研修で教えてもらった分析をすると」
「んー、……」
 明彦が歩を少し緩めて、前を向いて考えようとした横顔が、ハッと引き締まった。何だろう、と明彦の目線の先を見て有紗も固まった。
 信也と洋子がいた。スーツ姿の叔父が、厳しい表情で近づいてくる。明彦の方から手が離された。
「これは、前原部長。こんなところで……」
 信也は背筋を伸ばして礼をした明彦を無視して、有紗のすぐ前に立った。
「有紗」
「……」
「……え?」
 明彦が驚いた表情で名を呼んだ信也と黙った有紗を交互に見た。有紗は一度睫毛を伏せると、先ほどまでのにこやかな顔を消して明彦を向いた。明彦には叔父のことを何も言っていなかったが、有紗の顔を見て、頭の回転が早い彼はすぐに気づいたようだ。「あ、……え、そうか。前原……、って」
「娘だ」
 低い声で言った信也を見ると、不機嫌な顔で目を細めていた。「有紗。……今日、残業だと言ってなかったか?」
「……うん」
「ここで何をしてる?」
「……」
「ぶ、部長っ……、あの」
 割って入ろうとしたところへ信也に手を上げられ、明彦はピタリと身を止めた。
「有紗に訊いてるんだ」
「うん……」
「うんじゃない。……嘘をついて、こんなことをする必要があるのか?」
「……ごめんなさい」
 有紗は俯いたまま呟いた。不愉快な長い鼻息を吐いた信也は、
「森くん」
 と明彦を向いた。
「はいっ」
「ちょっと話がある。いいか?」
「はい……」
 少し消沈した明彦の声が聞こえ、顔を上げると信也に促されて連れて行かれようとしていた。レストランの予約時間まで時間はあまりない。
「あ、あの……」
「有紗ちゃん」
 側に来ていた洋子に腕を取られた。不機嫌になった夫を慮った顔つきで、諭すように小さく首を振られた。
「……有紗は母さんとどこかで待ってろ」
 少し離れたところから振り返って言った信也とともに明彦が去っていった。
「大丈夫よ。パパと同じ会社の方でしょう? ……きっとパパ、そんな変なことにはしないわ」
 消えていった先をずっと眺めている有紗を叔母は頻りに慰めて、どこかでお茶を飲んで待っていましょう、と手を引いた。とんでもない。変なことにしかならない。直樹を忘れるためのたづきが奪われる――。近くのカフェバーに入った有紗だったが、三十分、ずっとそれだけを案じていた。
 やがて洋子の携帯が鳴る。話している口調だけで相手が信也だと分かる。
「……パパ、機嫌直ったみたい」
 能天気なウインクに苛立ちを覚えつつ、洋子に連れられてエレベーターで階上に昇っていった。入口で姓を名乗った叔母が入ったレストランは薄暗く、各テーブルに灯されたキャンドルが凶々しい明かりを壁に懈ゆとわせていた。先導する店員に追いていくと、奥まった席に信也と明彦が並んで座っていた。既にワインクーラーが置かれ、二人のグラスに注がれている。店員に椅子を引かれ腰を掛けた。すぐにワイングラスが置こうとされるのを、
「ちょっと待ってくれ」
 と言って信也が店員を制し、テーブルから離れさせた。
「……有紗」
 何も言わず座っている有紗の膝に何か触れた。隣から叔母が手を置いて、何も知らぬくせに、物知り顔に頷いている。
「はい」
「森くんに全部話した」
 顔を上げた有紗は明彦を見た。神妙な顔をしている。そして信也を見てから、叔母を向いた。「養女であることも、養女になった理由もだ」
 そう言って叔父は水を一口含む。何を言ってるんだ。全部だなんて、まるで嘘だ。この場で告白して皆に許しを請わねばならない秘密がこいつにはあるのに。
「誰かと交際するのは別に構わない。歳ごろなんだから当たり前だ。しかし……」
 ミネラルウォーターのグラスをテーブルに置くと、「親に嘘をつかせて会うような奴は許せない」
「あ……、それは違う、私が勝手に……」
 明彦に指し向けられて嘘をついたわけではない。しかし明彦は信也に何の申し開きもしなかったようだ。
「有紗と、勝手に嘘をつかせるような付き合いをするな、ということだ」
 叔父は片手をテーブルの上に置き、無意識なのだろうが、トン、トン、とゆっくりとしたリズムで指先を叩いていた。
「……啓治兄さんの件も彼に話した。お前たち姉妹がどれだけ残酷な目に遭ったか、どれだけ辛い目にあったか教えてやった。特に有紗、まだ子供だった愛美のために気丈にしていたお前のことは、お父さんは忘れられない」
 嘔吐しそうだ。本当に、何を言っているんだろう、この男は。
「……そんな有紗に言い寄るなら、それなりの覚悟をしてもらわなきゃ困る。有紗をこれ以上辛い目に逢わせたら、絶対に許さない、とね。軽い気持ちで手を出しているのなら、今すぐ立ち去って、二度と有紗に会うな、と森くんに言ってやった」


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