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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 1.-9

「落ちないように、しっかりつかまって」
「うん……」
 そう言うと巾着を持った手を直樹の腰に巡らせた。直樹の香りが薫ってくる。那珂川沿いに出て疾走する自転車の上で、初めて触れた直樹の体に、喉から飛び出るほど心臓が高鳴っていた。同じく花火見物に向かう車がすぐ近くを追い抜いていく。有紗は別に見られたって構わなくなって、直樹の体に瞼を閉じて頬を押し付けた。
 狭くなる道幅に背後からクラクションを鳴らされながら、赤い鋼橋を渡ると、さっきまで対岸に見ていた川沿いの道に再び出た。しかし直樹は河口付近でもう一度別の橋を渡り始める。花火会場の港とは逆方向だ。
「ねー、花火あっちだよ」
 後ろから声をかけると、長い時間自転車を漕いできたために息を切らしながら、こっちでいいんだ、と直樹が言った。水族館が見え始めたところで、小道へ逸れて大きくUターンをするように坂を下って行くと、小さな駐車場で自転車は止まった。陽が随分と身を隠して、建物や木々の形が青紫色に沈んでいた。全て埋まっている駐車場の脇から伸びる暗い土階段へ直樹は歩いて行ったが、背後から追いてくる下駄の音に気づき、下り口の前で振り返って、やにわに有紗の手を取ってきた。掴まれた瞬間手を引きそうになった有紗だったが、やがて暗みの中で握り返すと、もう一方の手で浴衣の裾を引き上げつつ、一段ずつ階段を降りていった。公園として整備されている遊歩道の向こうに川面が見えた。まだ僅かな雲明かりを残している空を背景に、ところどころ人影が見える。駐車場に止まっていた車の持ち主たちだろう。
「港に行くとすごい人なんだ。おととし家族で行って身動きできなくなったし。……それに花火って少し離れた所から見ないと全部見えないよ」
 直樹の解説はともかく、階段を降り切って遊歩道を歩き、川べりまで来ても手を繋いだままであることのほうに有紗は胸を高鳴らせていたから、そう、と他愛もない返事をして視線を手元に落とした。直樹もつられて目を向け、あっ、と今まで手を繋いだままでいたことに本当に気づいていなかったようで、焦って離そうとしてきたが、有紗は握る手に力を入れてさせなかった。
「暗くてこわいから」
 聞いた瞬間に嘘だと分かる理由に、直樹が返事をしようとする背後で、空が火花に明るくなり始めた。
「始まった」
 手を繋いだまま次々と上がる花火を眺めた。多色の火玉が闊達に夜空へ飛び散って煌めいていた。港の周辺が朧の輪郭で半円に照らされている。黙って眺めていると、きれーい、と少し離れたところにいるカップルの女が言うのが聞こえてきて、そちらに目線を向ける途中で直樹と目が合った。直樹は花火を見ずに有紗を見ていた。
「な、なに……?」
「うん……」
 握った手に汗を感じる。花火の明かりを背負っているから表情が暈されているが、直樹が何かを言おうとしては思い留まってを繰り返しているのが分かった。有紗は手をゆっくり解き、その手を直樹の二の腕に巡らせてしがみついた。きっと直樹も同じ思いをしている。そうあってほしいと願って、決死の思いで見上げると、直樹が顔を近づけてきたから、
「ん……」
 と泣きそうになるのを堪えた息を漏らして唇を受け止めた。直樹も有紗の浴衣の袖を握ってくる。長い時間、花火も見ずにじっと唇を合わせていた。
「……センパイ」
 唇を離した直樹に袖を更に引き寄せられる。不服だった。
「センパイって呼ぶのやめて」
「うん……」
 じっとしている直樹の腕から手を外し、有紗は息を吐き出してから、正面を向いて直樹を見上げ、
「直樹」
 と言った。伊藤くんから直樹くんへ、そして今もう一度、有紗も呼び方を変えた。
「あ、有紗……、さん」
 さん、も不服だったが、有紗は両手を直樹の腰から背中に回して抱きついた。
「自転車漕いだから……、ご、ごめん、汗……」
「へいき」
 有紗が言うと漸く直樹が両手を回してきてくれて、汗すら心地よい匂いに包まれながら、もう一度見上げると唇が迫ってきて、暫く合わせたあと、首筋に額を埋めるとまた見上げたくなった。結局ほとんど花火は見なかった。
 電車に乗っていたり、街を歩くときは二人の間に幾許の隙間を置いていたが、人気のない場所で話す時は手を繋いだり、有紗が直樹の二の腕に絡みついたりした。もちろん、キスもした。直樹に触れながら、好きだ、好きになった、と教えてやると、強く抱きしめられて、嬉しさと愛しさを表現し切れない直樹のもどかしさが腕の力から伝わってきた。直樹に触れられていると、制服の下で肌に言いようもない心地よさが這う。直樹も時折有紗の反応を窺いながら、肩や背中に触れ、その手は抱きしめる度に徐々に有紗の体の中心へと場所を変えていった。
「あ、有紗さん。……あの」
 言いたいことは分かっていた。顔に有紗の全てに触れたい思いが書いてある。その表情を見ても嫌悪は一切起こらず、むしろ愛しくて、直樹ならば初めてを捧げても良いと思った。
「うん、……でも、まだやめとこう?」


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