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「あたし……」
【その他 官能小説】

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(2)-1

 訪ねてきた真奈美を見て瀬野は内心ほっとしていた。
(まるで少女ではないか……)
23歳で、自分を『男』と言って絡み合った話が性的成熟をイメージさせてしまったようで、滴るような妖しさを想像していたのである。そこに興味を抱いていたのは確かだが、そうであればこの狭い空間での同居は刺激が強すぎて悶々としてしまうのではないか。数日とはいえ、
(とても寛ぐことはできない……)

 2組の布団に3人で寝ると美菜は言った。
「安い布団買ったほうがいいんじゃないか?」
「だってずっといるんじゃないし。押し入れはいっぱいよ」
さらに瀬野が真ん中に寝ると聞いて、
「え?まずいだろう」
「なんで?」
「だって、布団二つだよ」
狭くて、どうしたってくっついてしまう。寝返りだって一苦労に決まっている。ゆっくり眠れない。それに真奈美だって嫌だろう。
「平気でしょう?だって男だっていうんだもん」
美菜は真面目な顔で言い、もし夜中に真奈美が触れてきたら困るのだと珍しく沈痛な面持ちを見せた。だから瀬野に間にいてもらいたい。
「ああいうことはもう二度としちゃいけないし、させないようにしないと。あの子、あの時はどうかしてたのよ……」
瀬野はそれ以上何も言えず、結局、寝てみてあまりに窮屈だったら布団を買うことで了承した。

 だから、真奈美の、見た目の『幼さ』にとりあえず安堵したのだった。むんむんとした肉感がないので意識が乱れずにすみそうだと思ったのである。
 
 真奈美はよく喋る明るい娘だった。倒錯した性癖をもっているとはとても思えない快活さである。いや、快活というより、大胆というか、羞恥心の欠如というか、瀬野は戸惑ったものだ。美菜から前もって聞いていなければ理解できなかっただろう。

 仕事から帰ると、胡坐をかいてビールを飲む真奈美がグラスを上げて、
「はじめましてぇ。真奈美ですぅ。お先にやってますぅ」
瀬野とは初対面だというのに、そんな改まった態度は微塵もなく、まるで自分の家に来た友達を迎えるような雰囲気であった。

「ごめんね。この子我慢できないって飲み始めちゃって」
美菜が苦笑を浮かべて首を振った。
「すいません、瀬野さん。シャワーを浴びたらビールですよね?」
「そうだね。当然だよ」
「ほら、話がわかる」
美菜が困ったような顔を向けて瀬野に頷いた。

 髪はショートカットだが『男』のような印象はない。むしろ可愛い女の子だと思った。とはいえ、さすがに目のやり場に困ったのはその格好である。太ももを露にしたパンツ姿。男物のトランクスである。いくら小柄でも23歳ともなれば柔肌の艶かしさは備わっている。さらに着ているランニングシャツはバスケット選手のユニホームのようにだぶだぶで胸元だけでなく脇からも小さな胸が見えるのである。ささやかな膨らみは揺れることもないから下着は必要がないのだろうが、小ぶりでも乳房である。たぶん風呂上がりのその格好を美菜はたしなめたことと思われる。しかし、『ぼくは男』だと聞く耳を持たなかったにちがいない。

 真奈美は男の言葉を連発したが、それはいかにも作為的でほんとうは笑いたいくらい不自然だった。

「明日はどこか行くの?」
美菜が訊くと、渋谷や原宿をぶらついてみる予定だと言った。
 仕事があるから付き合えないと美菜が言うと、
「いいよ、気にしないで。ぶらぶらしてくっから。仕事辞めちゃったし、しばらく遊ぶんだ」
「仕事辞めたの?なんで?」
「だってやってらんねんだもん。馬鹿な上司が言うことがしょっちゅう変わって」
「会社はどこでもそうよ。どこだって思い通りになんかいかないわよ」
「わかってるけど、やっぱり田舎はだめだよ。せせっこましくて」
「一人前の口きいて。まだろくに仕事してないじゃない」
「感性の問題」
真奈美は意に介せずぐびぐびとビールを飲んだ。

「真奈ちゃん。彼氏とはうまくいってるの?」
美菜が訊いた時、真奈美の表情が一瞬曇った。
「彼氏?そんな話したっけ?」
「前に言ったじゃない。高校の先輩とか」
「ああ。すぐ別れた」
「どうして?」
「どうしてって、男って、めんどくさい」
言ってから瀬野に向って首をすくめた。
「すいません……」
「いやいいよ。男はわがままだから、一人のほうが気楽だよね」
「まあ、それもまた、淋しいもんで……」
視線を美菜に向けた真奈美は複雑な目の動きをみせた。

 美菜への意識はあるように感じられた。
彼女と抱き合ったことを瀬野が知っているとは思っていないようだ。
 
 一時的にせよ彼氏がいたということは、彼女は『女』として付き合ったのだろう。その時、何かがあったのか。……
 ひどい目にあって心に傷を負った……自分の『女』を覆い隠すほど男に不信感を持った……。だが、もしそうなら、嫌なはずの『男になる』のはなぜか。そこがわからない。

 瀬野は憶測を巡らせるうちに自身の裡に小さな昂奮を感じ始めていた。自分を男だと言い、美菜を相手に達したという。ということは体は性的に成熟しているということである。
(本当に男に興味がなくなったのだろうか?……)
妖しい好奇心が湧いてきたのだった。華奢な体は肉感的ではないが妙にそそるものがある。
(反応をみてみたい……)
むろん露骨なことはできないが……。


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