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ミロスラワの場合
【アイドル/芸能人 官能小説】

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ミロスラワの場合-1

その日の朝、ミロスラワはいつものように父の位牌に短い般若心経を唱えてから、考えた。待ち合わせ場所は舟橋正仁の自宅にしてあった。シャワーでも浴びて、体をきれいにしておくべきだろうか。しかし、舟橋の要求には、少女の体から出るもの全てが慕わしいとあった。ミロスラワは、男の恥については思いを寄せ続けてきていたが、女の恥はほとんど考慮したことがなかった。だから、篠崎に見せた時に自信がなかったのだが、自分の体から出てきて自分でも厭わしいと感じている物を、他人の、しかも異性に晒して与える行為が、まともだと思えないのは当然だと思われた。自分に恥を晒してきた男子たちは、随分辛かったのではないだろうか。ミロスラワは、シャワーを浴びるのをやめた。「少女」などに幻想を抱いている無知な教員に女の実際を思い知ってもらうのも、大切なことだと考えた。
舟橋の家は遠かった。市電に乗って、町の反対側まで行かなければならない。春は桜の名所、秋は紅葉の名所となる真言宗の大きな山寺のすぐ近くに舟橋のいるマンションがあった。着替えが簡単にできるよう、学校のジャージで行こうかとも思ったけれど、目立つのは先方に困るだろうと、長袖のティーシャツにカーディガンを羽織り、下はスカートにした。肌寒いくらいをよしとしたつもりだったが、電車内は、よく晴れた天気のせいで暑く、腋の下や背中が汗ばんだ。
一面の紅葉が目に鮮やかだった。ミロスラワは四階建てのマンションをすぐ見つけた。最上階までエレベーターで上ると、呼び鈴を鳴らした。戸は返答なく開けられた。
「いらっしゃい。」
舟橋は、寝巻きのような部屋着を着ていた。ミロスラワは、何の前置きもいるまいと、部屋に上がった途端からスカートを下ろした。
「待って。僕に脱がさせて。」
と教員が慌てて止めた。ミロスラワは恥ずかしくて真っ赤になった。覚悟を出ばなで大きく挫かれた気がした。ここでスカートを上げるのもおかしい。少女は、下だけ半裸の異様な格好のまま立っていた。
「ちょっと座って。いくつか確認しておこう。」
「先生に言うことは何もありません。」
「君にはルールがあったよね。」
「あれは生徒の決め事です。先生ならあたしを補導したりもできるわけじゃないですか。」
「逆に、君には僕を訴える権利がある。十年後になっても、多分ね。」
「あたしは決めてきたんだから、人のせいにしたりしません。今なら、まだ先生は何もしていないし、補導できますよ。やっぱりそうだったんですか?」
舟橋は、違うよと答えた。ミロスラワは間を置いて
「でも、そのほうがあたしは良かったかも。」
と言った。舟橋は、それを聞いて、自分は本当に犯罪を犯そうとしているのだと、胸が痛んだ。子供の信頼を裏切る呪わしい性質を持った自分を改めて認識した。ミロスラワの言った通りに今なら言い換えることができるだろう。しかし、何のためにこの少女は来たのだろう。
舟橋がミロスラワのことを知ったのは、インターネットの書き込みからだった。学校の裏サイトがあることを、生徒の立ち話を耳にして知った舟橋は、そこから特定できる生徒を見つけた。舟橋はその生徒を呼んで話を聞いた。生徒は、ことが明るみに出てミロスラワに復讐されることを恐れていた。舟橋は、他の教員に伝えず、自分でサイト閉鎖の手続きをした。この生徒の話はミロスラワに伝わるかもしれないが、取り敢えず証拠は消えたわけである。もともと、ミロスラワの名前はサイトに出ていなかった。ただ、金髪赤目のエムとだけあった。
「もう脱いでいいですか。脱がせたいなら早くしてほしいです。」
立ち尽くしていたミロスラワが言った。言ってから、どうやったら先生のような人は満足できるのかと尋ねた。子供はみんな大人になるではないかと、浮かんで当たり前の疑問だった。舟橋は黙っていた。うつむいて
「帰りなさい。呼んだりして悪かった。」
と言った。
ミロスラワは、帰りませんと返し、トイレに行っているあいだに、したいことを紙に書いておくよう、舟橋に命令口調で頼んだ。火のようなミロスラワの迫力に舟橋は驚いた。
水を流す音が聞こえた。格好を変えずに戻ってきた少女に舟橋は紙を渡した。少女はそれに繰り返し目を通し、また顔を赤くした。そして紙を丸めてごみ箱に捨ててしまった。
ミロスラワは舟橋に、自分が言う通り動くよう伝えた。こうすれば、先生は自分からは何もしなかったことになるからと加えた。
「シャツを捲って胸を触ってください。」
舟橋が従った。胸というほどの膨らみはまだなかった。
「腋の下に毛があるか調べてください。」
ところが、舟橋もミロスラワも、共に笑い出してしまった。笑いは互いに止まらず、後を続けられなかった。
「人間の悩みは、ばかばかしいことが本当は多いんだろうかね。」
「ばかばかしいかどうか分かるまで、付き合うことにします。」
ミロスラワは、さっきの紙にあったことはいずれ全部すませるよう、舟橋に諭した。


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