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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 補習 〜-1

〜 補習 〜

 僕は手元のコンソールをいじり、モニター画面を切り替えた。 C棟からA棟の『講習室』へと繋がる渡り廊下が大写しになる。 前には大股で首輪を引く【2号】と、小ぶりな尻をもちあげて懸命についていく【30番】がいた。 

 2号の表情はモニター越しには判別がつかない。 在籍2年という短期間で担任に昇格した2号は、飲み込みも早く立居振舞にもソツがない。 自分を含め、人間を貶めることに躊躇わない性格は、それなりに学園にマッチしているんだろう。

 30番は2号とは対照的に、唇をきつく噛みしめて、ある種の感情をあからさまにしている。 教室をでる際の『真っ白』という感じに比べると、やや理性を取り戻したというところか。 おそらくは自分がおかした失態に気づき、後悔と補習への恐れでいっぱいだろう。

 ピシッ

 2号が手にしたリードをひく。

「うくっ」

「頭。 位置がおろそかですよ。 常に私の右足後方に顔をもってきなさい」

「はい」

「それから廊下は汚さないように。 貴方の汚い持ち物をもっと上げないと、零れますよ?」

「……はい」

 海老ぞりの要領で腰をそらし、手を前に伸ばしたうえで、額を廊下すれすれにさげる30番。 これでは四つん這いというよりは、平べったくなって蜘蛛が地面を這う恰好だ。 震える小ぶりな尻だけが上を向いた歪な姿勢。

「う、く」

「よろしい。 もし粗相でもしたら、命の保証はしませんから」

「は、はい」

 スピーカーごしに聞こえる30番の返事は余裕がなかった。 十数年前、学園に赴任したころの僕だったら、30番の声を聞いただけで同じように震えただろう。 他人の恐怖を自分に置き換える想像力があった頃だ。 
 もしも数年前の僕なら、この後の展開を考えて苦笑を漏らしていただろう。 同じような光景を何度も目の当たりにすれば、たいていの耐性はつくいい見本だ。

 一方で今の僕はといえば、今年初めて指導する側に回った2号がちゃんと対応できるかどうかのみ関心がある。 それとても事務的に確認する以上でも以下でもない。

 カツカツカツ、ペタペタペタ。
 
 ヒールと素足が交差し、やがて二人は『講習室』に入った。 合わせてコンソールを操作し、僕はモニターに『講習室』を映した。

 『講習室』、ここは一般の教官が自分の受け持ちになった生徒にプログラムを与え、集団行動に復帰できるよう促す場所だ。

 部屋全体がタイル張りで、長机が40台から入りそうな広い部屋だ。 黒板や机といった置物はなく、カーテンで仕切られた4畳ほどのスペースがいくつもある。 奥には準備室に続くドアがあり、中からは人の気配がする。 窓側の壁には備え付けのケージがあって、1つ1つは大型犬がぎりぎり入るくらいの奥行がある。 
 ドアのすぐ脇には、ファイルが詰まった本棚に挟まれるようにデスクがあって、中背で赤縁メガネをつけた女性が所在無く書類を繰っていた。 彼女はこの部屋の室長で、【補号】の呼称を与えてある。
 
「あら【2号】ちゃん、いらっしゃい。 初日の忙しい時間帯に、まさか遊びにきたわけじゃないわねえ。 ということはもしかして、もう預けにきたとか」

 メガネに人差し指を添える【補号】。

「はい。 この駄肉に補習をお願いできますでしょうか」

 【2号】はつま先で【30番】の顎をあげ、首輪についた名札をとった。 這いつくばった姿勢を保ちながらなすがままになる【30番】と、デスク越しに覗く【補号】。 

「うーん、別に構わないけれど、見た感じたいした風には見えないなあ。 大人しく繋がれているし、反抗的ってわけでもなさそうだし。 こんなコいじめて楽しいの?」 

「いじめるわけではありません。 言葉遣い、態度、姿勢、すべてが未熟すぎてクラスに悪影響を及ぼす可能性があります。 矯正するのが規則です。 こちらに名札をお預けしますので」

「悪影響ねえ。 確かにメンス臭そうな顔ではあるわねえ」

「プログラムはBでお願いします。 期間は設定しませんので、適宜延長してくださっても構いません。 終了後に私のところまで連れてくるよう、お願いします」

「プログラムB? そっち系が好みなの?」

「失礼、生徒を待たせています。 あとは【補号】にお任せしますので」

 【補号】がくすりと苦笑した。

「ほー、あたしのことを『呼び捨て』ですか。 【2号】ちゃんも偉くなったなあ」

「……私と貴方では役割は違っても立場は対等のはずです」

「確かに。 ついこの間まで全身泥だらけでピーピー泣いてたヒヨコちゃんも、今では指導する立場になったわけだしね。 今更だけどおめでとう。 もう右側ばっかりはみ出た、蛾みたいなビラビラを見ないで済むのは嬉しいわ」

「ありがとうございます」

「最初は大変だったっけ。 たった3分、息を止めたくらいで気絶しちゃって、情けないったら。 どうしても顔を挙げようとして、躾にならないもんだから押さえつけてあげたけど、なんだかんだ垂れ流して、まったく大した匂いだったわ。 どうせ自分の口で掃除することになるんだから、下の躾くらいできそうなものなのに、なんでいちいち漏らしちゃったの? よければ教えて欲しいんだけど」

 2号は手にしたリードをデスクに預けると、一歩下がって深々と頭を下げた。
 
「その節は大変お世話になりました。 ご指導ありがとうございました」

「そのうち5分止められるようになったけど、貴方にはずいぶん手をかけてあげたのよ。 それだのに『さん』を付け忘れるなんて、どうかしてると思わないのかしら。 ねえ【2号】ちゃん?」

 頭をあげ、ふう、と2号は小さく息をはいた。


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