告白-1
時計は16：40だった。「閉店まで後20分あるけど、もう今日は店を閉めようかなぁ」と独り言を言っていると。
♪カラン♪コロン♪ドアのガウベルがなり、ドア見るとたまに来店する20過ぎの男性が入店してきた。「いらっしゃいませ」
男は「ホット」と一言言い、本棚からヤングマガジンを取り、いつもの定位置になっている窓際のテーブル席に腰を下ろした。
「どうぞ」水が入ったグラスとコーヒーカップをテーブルに置くと、男性はちらちらと緊張するように私を見ながら、ぺこりと頭を下げた。
そんな男性を見て、カウンターに戻った後、『えぇと・・・誰だっけなぁ。たまに来るのよね・・確かこの子は・・・松原さんところの・・・』記憶を巡らしながら、先日の会話が甦った。
保険外交員の松原という中年女性が来店した時だった。松原と亜沙美は顔なじみらしく、自然と二人の会話の輪に入り、おしゃべりしてた際、
亜沙美が「そう言えば息子さんお元気？ここ2週間ほど見ないけど」と言うと松原が「元気は元気よ。でもうちの圭介ももう26歳なのに大学をまだ卒業出来ず、ふらふらして困ったもんよ」と言っていた。
後で亜沙美に詳しく聞いてみると「松原さんのところの息子さんで圭介君が2年浪人してやっと入った大学が合わなくて、それでも松原さんに卒業だけは！と言われ、いやいや留年しながら通ってるんだって。ほら、ここにも来るじゃない？」と言われていた。
『そうだ！松原さんのところの圭介君だわぁ！』
時計は16:50を廻っていた。ランチ用のサンドイッチの具材が余ってるのをカウンターで見つけ、17:00で閉店なので捨てるのも勿体ないなあと思いながらいると、『そうだ！たまごサンドでも作ろう！』と急に思いつき、手際よく用意した。
圭介にもサービスしようと持って行くと、圭介が食い入るように見ている漫画のページが目に入った。
ページにはびっくりするくらいの巨乳の女の子が全裸で後ろから襲われている絵だった。
「こら！そういうのを見てるとまた留年するぞ！学生君。これはサービスするからお勉強頑張ってね。と言ってもあまりものなの、良かったら食べて。」と冗談ぽく言うと、圭介は慌てて雑誌を閉じ、「ごめんなさい」と謝ってきた。
「別に謝らなくてもいいじゃない。自然な事よ、男の子だもんね。さぁ、食べて。サービスだから」と言うと赤くなった圭介は「ありがとうございます」と言うが固まってる。
カウンターに戻り、圭介に「さっきのページみたいな女の子が好きなの？」意地悪に聞いてみると、「すみません」とだけ言い、赤くなって俯く圭介に「いいのよ、別に誰にも言わないから。ほら、食べなよ」
「頂きます・・・おいしいです」と言いながら食べる圭介に「あら、お世辞なんて言えるんだぁ？」とからかうと「本当です、野原さんのサンドイッチだからおいしいです！」と上気した表情でこちらを向いた。
「あれ？どうして私の名前を？」と聞くと「母に聞きました。母がここにはたまに来てるので」
「松原さんだよね・・・君は噂の圭介君」と言うと「噂？」と聞いてきたので「ううん、何でもないの。でも残念ね、今日はもう亜沙美さんは帰っちゃったよ」と言った。
その言葉を自分で聞いて、さっきの鈴木とのやり取りを思い出し、沈んだ気持ちが甦った。
「え？どうしてですか？」と効いてくる圭介に「だって、君も亜沙美さんに会いに来たんでしょう？」
「違います！・・・そんな！野原さんに・・・佳代さんに・・・」という圭介に「え？私？」と聞くと
突然立ち上がった圭介は「僕は佳代さんが好きです！」と店内に響くほど大きな声で告白してきた。
「え？はぁ？」と困っていると「ごめんなさい・・・突然こんなこと・・・ごめんなさい」と謝る圭介を見てきゅんっ！と胸が鳴ったような気がした。
「そ・・そんな告白されてもねぇ・・・おばさんは結婚してるし、子供も二人いるし・・・でもありがとう」と素直に言うと
「・・・すみません・・・でも佳代さんはおばさんじゃないです・・・・可愛いし、若いし、スタイルもいいし、ずっと話したくて通ってました」恥ずかしそうに俯きながら話す圭介に「ありがとう。私も嬉しかった。」と言って上げた。
「私もちょっとむしゃくしゃしてたので気が晴れたわぁ。うれしかった。でもね、結婚してるからお話しくらいだよ」と言うと「また、来てもいいですか？」と圭介が聞いてきた。
「圭介君がお話ししたくなったらいつでも」と微笑むと、その言葉を聞いた圭介は代金の400円をテーブルに置いて帰って行った。